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Category : フェミニズム
■フェミニズムの潮流




  ▼「夫婦別姓」といふ地雷




 

 自民党は15日開催した党会合で、第五次男女共同参画基本計画案を了承した。

 夫婦別姓問題では、当初案にあつた別姓推進の記述は大幅に削除され、一応、別姓反対派が盛り返した形となつた。

 そもそも夫婦別姓問題に関する内閣府原案の記述は、夫婦同氏制が「結婚に踏み切れず少子化の一因になっている」などと「弊害」を羅列し、最高裁判決の別姓賛成派の少数意見を引用するだのして、二ページに及ぶ異常な代物だつた。

 自民党が了承した計画案では、これらの記述の大半が削除され、「選択的夫婦別子制度」といふ文言も消え、かはりに次のやうな記述が盛り込まれた。

 「戸籍制度と一体となった夫婦同氏制度の歴史を踏まえ、家族の一体感、子供への影響なども十分に考慮し、国民各層の意見や国会における議論の動向を注視しながら、司法の判断も踏まえ、さらなる検討を進める」

 もつともこれを、別姓反対派の一方的勝利とみるのは早計である。別姓推進派の抵抗で、「司法の判断も踏まえ」などといふ文言は残されたからである。

 内閣府・男女共同参画局のホームぺージをご覧いただければわかるが、https://www.gender.go.jp/
内閣府では男女共同参画基本計画策定のたびに、専門委員会を設置し、フェミニズム学者らを集結して、フェミニズム政策の策謀をめぐらせてきたのである。

 今回の第五次男女共同参画基本計画策定では、丁度内閣の交代時期に重なつた上、新内閣が新型コロナウィルス問題に忙殺されてゐるスキをついて、夫婦別姓推進派による強行突破が図られたものの如くである。

 夫婦別姓を企む勢力の拠点は、内閣府・男女共同参画局と法務省である。

 かれらの今回の策動は失敗に終はつたが、夫婦別姓制度の導入がかれらの最大の目標であることにかはりはない。

 かつて、民主党政権時代に、福島瑞穂が男女共同参画担当大臣に就任して、夫婦別姓法制化を目論んだ。夫婦別姓をめぐる今回の自民党内の紛糾は、自民党の中にも福島瑞穂がウジャウジャゐることを露呈した。

 夫婦別姓といふ地雷はたへず爆発の危険性を秘めてゐることを忘れてはならない。












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■『夫婦別姓大論破!』




  ▼「夫婦別姓」問題の基本構造





 『夫婦別姓大論破!』といふ本を共著で出したのは二十年以上も前のことだ。

 平成八年に法務省の法制審議会が「選択的」夫婦別姓制度を盛り込んだ答申を出したことから、夫婦別姓推進勢力の実態と別姓制度の危険性を世に訴へるべく緊急出版された本である。(残念ながら『夫婦別姓大論破!』は現在絶版になつてをり、ネット書店では中古本にバカ高い値がついてゐる。)

 平成八年の法制審議会の答申は、国民世論の反対が圧倒し、この時は民法改悪の動きを阻止することができた。

 しかし、夫婦別姓推進勢力はその後も、法廷闘争、自民党への働きかけなど執拗に運動を継続し、今に至つてゐる。

 夫婦別姓問題をめぐる情勢で、平成八年当時と現在とではひとつ変はつたことがある。

 それは、「男女共同参画社会基本法」といふ法律が平成十一年に公布されたことである。

 「男女共同参画社会基本法」は、ジェンダーフリーといふスローガンがまかり通つてゐた頃、フェミニズム勢力が画策して制定した法律である。

 「男女共同参画」イコール「フェミニズム」なのに、自民党議員もその意味もわからずに賛成して、「男女共同参画社会基本法」は全会一致で国会を通過したのである。

 この「男女共同参画社会基本法」の中に、政府は男女共同参画基本計画を五年ごとに策定しなけばならないといふ一項が入つてゐた。

 要するに、政府は、フェミニズム政策について、五年ごとに進捗状況を検証し、次の新たなフェミニズム政策の策定が義務づけられたのである。

 夫婦別姓推進勢力は五年ごとに、この基本計画の中に夫婦別姓の法改正をもぐりこませるべく、血道をあげてきたことはいふまでもない。 夫婦別姓問題が五年ごとに浮上するサイクルが出来上がつたのである。

 平成二十七年十二月二十五日に閣議決定された第四次男女共同参画基本計画では、夫婦別姓問題は次のやうに書かれてゐた。

《 家族に関する法制について、家族形態の変化、ライフスタイルの多様化、国民意識の動向、女子差別撤廃委員会の最終見解も考慮し、婚姻適齢の男女統一、選択的夫婦別氏制度の導入、女性の再婚禁止期間の見直し等の民法改正等に関し、司法の判断も踏まえ、検討を進める。》

 最高裁は、夫婦別姓訴訟三件を小法廷から大法廷に回すことを決めた。またまた憲法判断が下されるわけである。原告たちは、男女共同参画基本計画の策定時期に最高裁判決が出るやう計算して訴訟を提起してゐるのだ。

 知らぬは国民ばかりなり。

 マスコミに、夫婦別姓賛成〇〇パーセント、反対〇〇パーセントといふ世論調査の数字が躍るのもこの時期である。

 別姓訴訟を起こしてゐる連中は、自分たちが別姓を実践したいから提訴してゐるのではない。夫婦別姓運動の一環としてやつてゐるのだ。夫婦別姓運動家たちは「夫婦別姓はやりたい人だけがやればいい」といふデマゴギーを三十年前から振りまいてきたのである。

 政府は今、第五次男女共同参画基本計画を策定しつつある。自民党内の議論が報道されてゐるが、自民党の中には稲田朋美の如き変説漢もありし故、どう転ぶかわかつたものではない。危ふいかな。

 私はかつて『男と女の戦争』といふ本を書いたことがあるが、確実に言へることは、夫婦別姓が制度化されたなら、男と女の間に戦争を引き起こすといふことである。



















◎『社会運動の戸惑い』再論

《「バックラッシュ」の退潮とフェミニズム》について

 山口智美・ 斉藤正美・荻上チキ著『社会運動の戸惑い』(勁草書房)に関して、もう一回書きたいと思ひます。

 本書の第1章には、バックラッシュ派・バックラッシャ―と呼ばれた人々がある時期を境にフェミニズムや男女共同参画の問題から離れていつた経緯を取り上げた《「バックラッシュ」の退潮とフェミニズム》といふ興味深い一項があります。

 なるほど、本書に登場する友人・知人などを見渡してしても、ジャーナリストの野村旗守氏や世界日報の鴨野守氏などは今はフェミニズム問題とは別のテーマを追つてゐます。不肖自身はといへば、このブログのタイトルを「男女共同参画天皇への道」とし名づけてゐるやうに、一貫してフェミニズムへの関心を持続ゐるつもりですが、しかし、メルマガ(反フェミニズム通信)はやめてしまつたし、「反フェミニズムサイト」もずつと前に閉鎖してしまひました。フェミニズムへの関心といふ点からいへば、『男と女の戦争―反フェミニズム入門』(展転社)を出した平成16年あたりがピークだつたやうです。今取り組んでゐる女系天皇・女性天皇問題も、一方では天皇・国体の関心から、一方ではフェミニズムへの関心から発したものですが、天皇論に取り組むには、国史そのものと格闘しなければならない。天皇の問題を本格的にやらうとすると、とてつもないエネルギーが必要となり、そんなことから、男女共同参画行政とかフェミニズム問題全般に取り組む余裕がなくなつてきた、といふのが正直なところです。

 自分のことは棚にあげて、「バックラッシュ」の動きを社会現象としてみると、ジェンダーフリー旋風が吹き荒れたので「バックラッシュ」が起き、ジェンダーフリー旋風が沈静化したので「バックラッシュ」の動きもおさまつたとしか言ひやうがありません。著者たちは、あの時のバックラッシュの参加者たちはなぜ急速に引いてしまつたのだらうと考へますが、たしかに、現今の保守派の運動にうつろいやすい側面があることは否めません。フェミニズムから原発、尖閣とテーマと変へてゐる人も珍しくありません。次々に新たなテーマに取り組む姿勢といへば聞こえはいいのですが、悪くいへば移り気で、ひとつのテーマへの関心が持続しない性癖といへなくもない。

 しかし、もつと本質的な部分で、保守派の運動とはもともとさうしたもの、といふ気持ちも私の中にあります。それはきつと、若いころから読んできた福田恆存の影響かもしれません。福田恆存は「私の保守主義観」といふ文章で次のやうに言ひます。

《保守派は眼前に改革主義の火の手があがるのを見て始めて自分が保守派であることに気づく。「敵」に攻撃されて始めて自分を敵視する「敵」の存在を確認する。武器の仕入れにかかるのはそれからである。したがつて、保守主義はイデオロギーとして最初から遅れをとつてゐる。改革主義にたいしてつねに後手を引くやうに宿命づけられてゐる。それは本来、消極的、反動的であるべきものであつて、積極的にその先回りをすべきではない。》(『常識に還れ』)

 この福田理論をフェニズムにあてはめれば、フェミニズム運動が起きてはじめて反フェミニズムの運動が起きるといふことになります。フェミニズムの運動が起きる前に、反フェミニズムの運動が起きることはない。ましてや、フェミニズム運動を事前に抑へこむための保守派の運動といふものもありえないといふことになります。

 バックラッシュとはよくも名づけたものです。backlash とは、反動・反発の意味です。車が急停車するとガクンと跳ね返りの動きが起きる。あの動きがbacklashです。車が静かに止まつてくれれば何事も起こらなかつたのに・・・・。『社会運動の戸惑い』の副題ではありませんが、フェミニズムと付き合つた十年間を私自身「失はれた時代」と思はないではありません。
  









 
■ 山口智美・ 斉藤正美・荻上チキ著『社会運動の戸惑い』(勁草書房)書評

 「バックラッシャー」を通じて問ひ直すフェミニズム


 『社会運動の戸惑い』(勁草書房)といふタイトルの、ちよつと風変はりな本が出版されたので紹介したいと思ひます。著者は山口智美、 斉藤正美、 荻上チキの三人。『社会運動の戸惑い』といふ書名だけみると一体なにをテーマにした本なのだらうと思つてしまひますが、《フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動》といふ副題の方が本書の内容を直接に表現してゐるやうです。フェミニズムの研究家であり、実践家でもあり、つまりフェミストである著者たちは、ジェンダーフリーの嵐が吹き荒れフェミニズム運動が盛り上がりをみせた時期に各地で起きた反フェミニズム運動、いはゆるバックラッシュ運動に焦点をあて、それらの運動が、いつ、だれによつて、何を契機にして生起したのかを、当事者双方への聞き書きから明らかにしようとするのです。

 本書でとりあげられたバックラッシュ運動とは、宇部市の男女共同参画推進条例問題、千葉県の男女共同参画条例問題、「性的指向」をめぐる宮崎県都城市の条例制定問題、福井県の生活学習館「ユー・アイふくい」のフェミニズム図書撤去問題など。

 実は不肖千葉展正も、本書に登場(第3章 千葉県に男女共同参画条例がない理由)するので、今書いてゐるこの文章もまあ不肖の宣伝と思つてお読みいただきたい。著者らとは、『男女平等バカ』(宝島社)で一緒に仕事をした野村旗守氏の紹介でお会ひし、地元の喫茶店でかなり長いインタビューを受けました。一昨年のことです。千葉県における条例推進側だつた堂本元知事や大沢真理女史らへの取材は既に終へてゐるとの事でした。

 千葉県の条例問題といふのは、堂本知事が日本一の男女共同参画条例をつくるんだと豪語して、本当に日本一過激な男女共同参画条例案をつくつてしまひ、やがて条例反対運動が起きて、堂本知事案は棚上げになつたものの、今度は反対運動を展開してゐた保守が分裂、一方の保守が自民党を抱き込んで「良識的」な男女共同参画条例案をつくるも、この自民党条例案も最後は廃案になるといふ摩訶不思議な展開をたどりました。
 
 不肖は対堂本案のバックラッシャーのみならず、自民党案のバックラッシャーとしての栄誉まで担つてしまひ、そのへんのことは『男と女の戦争』(展転社)にも書いたのですが、訪ねてきたお二人(山口さんと斉藤さん)の関心も当然保守分裂の背景にあつたやうです。不肖は本来社会運動家でもなんでもないのですが、地元の千葉県でみすみす日本一の男女共同参画条例をつくらせるわけにはいかないので、この時ばかりは猛烈に動きました。自民党の有力県議たちに片つ端から会ひに行き、自民党政調会長に面談するために房総半島の先端まで車を飛ばしたなんてこともありました。メルマガ、ブログ、雑誌、ミニコミ、チラシ、ファクスとあらゆる媒体をつかつて条例案に批判を加へ、後半はその矛先が自民党案に向かつたといふ次第です。

 さて、『社会運動の戸惑い』に戻ると、本書にはバックラッシュ派への聞き書き以外にも、例へば、ジェンダーフリーといふ由来不明の用語がどれほど事態の混乱を招いたかを分析した第1章や、国立女性会館(ヌエック)を箱モノ行政として分析した第6章、フェミニズムとインターネットなどの関係を分析した第7章など、精緻克明なレポートが並んでゐます。これらを読めば、著者たちが、現下の政府主導による男女共同参画行政に根本的な違和感を抱いてゐることが分かると思ひます。さう。この本はフェミニストのひとたちがバックラッシュ運動を通じて、フェミニズム運動の問題をあぶり出さうとした試みだつたのです。

 『社会運動の戸惑い』はそもそもフィールドワークに立脚した学術書なのですが、著者らが「バックラッシャー」にファクス一本送るにも緊張してみたり、あるひはまた訪問先で「バックラッシャー」の仲間とバーベキューで盛りあがつたりと、異文化ならぬ異イデオロギー邂逅の物語として読んでも面白いかもしれません。その意味で「ちよつと風変はりな本」なのです。
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プロフィール

tensei211

Author:tensei211
ちば・てんせい。ジャーナリスト・評論家。皇室問題やフェミニズム問題に取り組む。三島由紀夫研究家。國語問題研究家。


フェミニズム論の著作として、『男と女の戦争―反フェミニズム入門』(展転社)など。フェミニズム関係の共著に『男女平等バカ』(宝島社)、『夫婦別姓大論破』(羊泉社)などがある。

皇室関連の著作としては『天皇を喰ひ物にした侍従長』『天皇と宮内庁の「背信」』など。

執筆には正仮名遣ひ(歴史的仮名遣ひ)を使用、当ブログも正仮名遣ひを用ゐる。

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