Category : 稲田朋美
■稲田朋美の変節と安倍晋三の変節(4)

 
 「変節」むなしく「初の女性首相」が夢と消えた稲田朋美




 5月に開催されたゲイの祭典「東京レインボープライド2016」に参加した稲田朋美は、記者団から過去の言動とは違はないかと問はれて、かう答へた。

《私自身は男らしさとか女らしさといふことを言つたことは今まで一度もないし、男は男らしく女は女らしくすべきだといふふうには思つてゐないし、自分自身もそんなふうにして育つてきていないので、自分としては全く矛盾はない。》

 よくもこんな大嘘を平気で口にできるものだと感心してしまふ。

 10年近く前、稲田朋美は雑誌にこんな文章を書いてゐる。

《ジェンダーとは「社会的・文化的に形成された性別」である。国の第二次(男女共同参画社会)基本計画では「文化的」という言葉が削除された。自民党の議論の中で「男らしさ」「女らしさ」の区別にもとづく鯉のぼり、ひな祭りなどの日本の伝統文化を否定するのかという批判が相次いだからである。

 しかし「文化的」という言葉を削除したことで問題は解決したのだろうか。「社会的性差」を否定することは、すなわち「男らしさ」「女らしさ」を否定することに他ならない。》(平成19年「別冊正論」第7号)

 その他、ジェンダーフリーについて稲田が書き散らした活字の証拠は山ほど残つてゐるのに、そんなこと言つた覚えはない、とあつさり否定してしまふ厚顔さ。

「女性の割合を上げるために能力が劣っていても登用するなどというのはクレージー以外の何ものでもない」と男女共同参画社会基本法をこきおろしたこともある。

 フェミニズムを敵視してゐた稲田の言動が、自民党政調会長になつてからどのやうな変貌をとげたか?

 昨年9月、稲田がワシントンの「戦略国際問題研究所」(CSIS)で講演したことは前述の通りだが、日本の防衛問題には通り一遍触れただけで、稲田が安倍政権の目玉政策として講演の半分以上を費やしたテーマは女性政策だつた。

 その一部をちよつと紹介してみようか。

《女性活躍も大きな課題です。最近、私たちは女性の社会進出を促進するため、新しい法律を制定しました。この法律により、企業は女性の採用、登用、能力開発などのための行動計画を策定しなければなりません》

《私が弁護士になったのは約30年前です。私が弁護士事務所で職探しを始めたのは25歳の時ですが、若い女性を雇う会社はありませんでした。私の夫は、私と同時期に司法試験に受かりましたが、数え切れないオファーを受けていました。しかし、私は女性であるがゆえに何のオファーもなかったのです。少なくとも、私はそう信じていました》

《結局、私はある弁護士事務所から、少なくとも5年間は結婚しないという条件付きでオファーを受けました。現在、そのような条件付けを行われることは、想像すらできません》

《しかし、日本の男女平等の指数は世界142カ国中104位です。これは、企業における管理職割合と政治参画が惨澹たる結果だからです。女性の国会議員はわずか10%です。私はちょうど10年前に政治家になりました。私は、自身の選挙区から選出された59年ぶりの女性衆院議員です》

《日本にはM字カーブという言葉があります。女性が結婚や出産を機に仕事をやめ、子供が成長してからようやく仕事に戻るので、子育て世代の女性の就業数が減ってしまい、Mの字になるということを表しています。これらの女性にどのようにフルタイムの雇用に戻ってもらうかが大きな課題です》

《女性活躍の政策は、女性のためのものではありません。私は行革担当相のときに、多様な働き方を推進する社会をつくるために、勤務時間の改革を提唱しました。何時間働いたかではなく、何を成し遂げたかで評価しなければなりません。女性が働きやすくするためだけではなく、男性がより充実した人生を送るために、ワークライフバランスを評価するメカニズムも必要です」》

《 8月末には東京で、女性が輝く社会に向けた国際シンポジウムの第2回会合を開きました。女性の活躍を支援するため、国民の意識を高め、世界のグッド・プラクティスを共有する取り組みを世界にも広めたいと思っています》

 「男女平等の指数」だとか「M字カーブ」だとか「ワークライフバランス」だとか、そのへんのフェミニストが言つてゐることとなんにも変はらない。

 といふより、今の安倍政権が言つてゐることとなんにも変はらない、といふべきだらうか。

 ほとんどトチ狂つてゐるとしかいひやうがない。CSISは戦略問題で世界有数のシンクタンクである。戦略問題の専門家を前にして、日本の「M字カーブ」だとか「ワークライフバランス」だとかを力説した日本の与党の政策最高責任者。

 稲田が訪米したのは、日本初の女性宰相候補たる自分のPRと、安倍政権のフェミニズム政策のPRを兼ねたものだつた。安倍首相に忠誠を尽くす一方で、ちやつかり自分もPRするといふ寸法。

 かつてはジェンダーフリー反対運動の急先鋒にゐた安倍首相がいつのまにやらフェミニズムの信奉者に変節した。政権延命のためなら変節なんか構つたことじやない!

 忠実なる安倍信者である稲田朋美は安倍首相の変節をそのまま受け入れた。それだけの話だ。

 国会で稲田防衛大臣は、防衛問題についての無知をさらけ出してお粗末な答弁を繰り返し、8月15日の靖国神社参拝を回避するための姑息な小細工を追及されて涙ぐんだ。

 でも、いくらアリバイづくりのための海外逃避とはいへ、アフリカの紛争地ジブチに乗り込まうといふ日本の防衛大臣が、サングラスをかけて、原宿を闊歩するギャルみたいな服装で出かけるのはマズイんぢやないだらうか。

 一連のドタバタで、ポスト安倍レースにおいて稲田朋美が「初の女性首相」となる目は消えたといはれてゐる。

 安倍首相に寵愛されてゐると信じ切つて、「変節」までお付き合ひして御追従につとめたのに。お気の毒に。




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■稲田朋美の変節と安倍晋三の変節(3)



 安倍首相へのご追従としての稲田朋美の「変節」




 ついこの間まで「ジェンダーフリー反対!」と叫んでゐた稲田朋美が自民党政調会長のポストにつくなり、「LGBTの人たちの人権を守らなければなりません!」とゲイ運動の旗振り役として登場したのだから、驚いたのはゲイ運動をやつてる当事者たちだつた。
 「この女、本気なのかいな?」

 はじめは半信半疑だつたゲイたちも、自民党政調会長稲田朋美がゲイの祭典に参加し、ゲイ運動の象徴たるレインボーのサングラスをかけてはしゃぎ回る姿を真のあたりにして、稲田が自分たちの運動の真の支援者であることを理解し、ゲイ団体は彼女に表彰状を与へたのだつた。

 ジェンダーフリー反対、夫婦別姓反対、男女共同参画社会基本法反対を主張し、尊属殺人罪復活、靖国神社国家護持が持論の稲田朋美は自民党内でも有数の強硬保守派と目されてきた。

 ジェンダーフリーに反対してきた人間がある日突然、ゲイの人たちの権利を守りませとと言ひ出す。普通、このやうな思想転換を「変節」と呼ぶ。

 稲田朋美の場合は、政治家の思想的「変節」の典型的なケースといつていいかもしれない。

 ではなぜ稲田朋美が「変節」したのか?

 理由は至つて簡単である。

 政界における親分であり、自分を寵愛してくれる安倍晋三が「変節」したからである。

 (この項続く)




■稲田朋美の変節と安倍晋三の変節(2)


 ゲイ団体から表彰された稲田政調会長





 自民党政調会長時代の稲田朋美のゲイ問題への傾斜ぶりは尋常ではなかつた。
 
 自民党内にLGBT問題を検討する「性的指向・性自認に関する特命委員会」を設置したのも稲田、その委員長にポン友の古屋圭司を任命したのも稲田、自民党のゲイ理解増進法案(「性的指向及び性同一性の多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案」)の作成を主導したのも稲田朋美である。

 元拉致問題担当相で、自民党憲法改正推進本部長代理でもあつた古屋圭司をゲイ問題に引つ張り込んだところに稲田のゲイ問題への執心ぶりがうかがへる。

 とにかく政調会長時代の稲田ときたら、憲法改正などにはまるで関心を示さず、拉致問題なんかはそつちのけ、ひたすらLGBT問題で党内を駆けずり回つてゐたのである。

 いや、自民党内どころではない。昨年9月には、アメリカに飛んで、ワシントンの戦略国際問題研究所(CSIS)で講演。そこで、「核保有を検討するのが日本の国家戦略だ」とでも発言したかと思ひきや、なんと、日本はLGBT政策を推進しなければならないと宣言したのだつた。

 ゲイ問題への八面六臂の活躍は、ゲイ団体からも高い評価を受けて、あるLGBT支援団体(「フルーツ・イン・スーツ・ジャパン」)はその功績をたたへて稲田朋美を表彰した。そして稲田も表彰式にビデオメッセージを送つた。

 この団体が前回表彰したのは、パートナーシップ証明書を発行した渋谷区長の長谷部健だつた。

 ゲイの祭典に出席し、ゲイ団体から表彰された政治家が今防衛大臣として自衛隊の栄誉礼を受けてゐる。

 こんな自衛隊最高指揮官に栄誉礼をしなければならない自衛隊員たちが気の毒でならない。


 (この項続く)
 

■稲田朋美の変節と安倍晋三の変節(1)


稲田朋美の自民党政調会長時代の最大関心事はゲイ問題だつた




 国会では、民進党が稲田朋美防衛相の防衛問題等についての過去の発言を取り上げて、稲田攻撃に躍起になつてゐる。

 稲田朋美の過去の発言といふのは、核保有を国家戦略として検討すべきだとか、それ自体は至極真つ当なことばかりなのだが、いざ国会の場で追及されると、「核のない世界を目指してまいります」とかなんとかテキトーな答弁で逃げてしまふ体たらく。

 国会でのこんな空疎なやりとりだけ見てゐると、自社対立時代に、自民党の大臣が防衛問題や過去の戦争への発言などで野党から難癖をつけられ、最後は事なかれ主義の自民党総理によつて大臣が詰め腹を切らされるといふ、戦後くさるほどくり返されてきた大臣辞任騒動の再来を思はせられる。

 民進党も当然それを期待してゐるのだらうが、私は今の稲田発言問題は以前の自民党大臣辞任問題とはちよつと違つた印象を持つ。

 といふのは、稲田朋美の過去の発言とは、文字通り「過去の発言」であつて、私には今の稲田朋美がかつて口にした立派な言説の数々を今でも抱懐してゐるとは到底考へられないからである。

 稲田朋美が自民党政調会長の時、狂つたやうに取り組んだテーマはなんだつたか?
 
 それはLGBT(性的少数者)の問題だつた。つまりゲイの問題。

 彼女はこの6月、ゲイの祭典である「東京レインボープライド2016」を自民党政調会長として公式に「視察」した。自民党首脳部がゲイの集会に公式参加したのは前代未聞のことだ。

 集会に参加した後の稲田の発言を朝日新聞が紹介してゐる。見出しは「LGBTは人権問題、しっかり取り組む」。
http://www.asahi.com/articles/ASJ574WNRJ57UUPI004.html?iref=comtop_rnavi_arank_nr04

以下がその発言内容。

《今まで、自民党がLGBT(性的少数者)の問題に取り組むと言ったら、なんかこう場違いな感じを受けたが、私はこれは歴史観とか思想信条とかそういうことではなく、人権の問題で多様性の問題なので、政権与党の自民党がしっかりと取り組んで、LGBTの方々の理解を促進していって、一つ一つの課題を解決していくことが重要だと思っている。

 息子が大学生の時、親しい友人が当事者だったこともあり、LGBTの方々の問題にもしっかり取り組まなければいけないと思った。私は色んな人たちが自分らしく生きられる社会をつくりたいと思っている。(これまでの自身の主張と矛盾しているとの批判があるが)私自身は男らしさとか女らしさということを言ったことは今まで一度もないし、男は男らしく女は女らしくすべきだというふうには思っていないし、自分自身もそんなふうにして育ってきていないので、自分としては全く矛盾はない。

 (自民党内では)「えっ」と思う人が反対だったり、すごくリベラルかなと思っていた人がLGBTの問題には全然理解がなかったりする。今まで自分を支援してくれたたくさんの人から、「なぜ、稲田さんがそんなことを言うのか分からない」と言われることもある。

 でも、私はLGBTの問題に取り組んで、その理解を広めることが、実は一億総活躍社会そのものだと思っている。誤解をされている方にも、しっかり説明していきたい。》

 朝日のサイトに掲載されてゐる稲田朋美の写真に注目されたい。

 虹色のサングラスをかけて笑顔を振りまいてゐる。

 レインボーはゲイのシンボルである。だから彼ら彼女らのお祭りも「レインボー」の名称を冠する。お祭り会場はレインボーだらけ。参加者たちは世界中にレインボーフラッグがはためく日を夢見てゐる。

 ゲイの祭典で購入したレインボーサングラスをかけて喜々とする自民党政調会長。

 ついでに解説すれば、稲田がいつもかけてゐるメガネはダテメガネである。本当はメガネが必要なほど視力は悪くないのだが、稲田の選挙区である福井がメガネ産業が盛んなことから、地場産業をPRすると称してダテメガネをかけてゐるのだ。

 ゲイの集会で買つたレインボーサングラスをかけてニッコリと微笑んでみせた稲田朋美のパフォーマンスは、ゲイの支援であると同時に、メガネ産業への支援なのかもしれない。

 ともあれ、ゲイの集会にノコノコ出かけて行つてこんなパフォーマンスをやらかす人物が、「日本の核戦略」を語るにふさはしくない政治家であることだけは確かである。

※ 「東京レインボープライド2016」の狂態ぶりを知りたい方はこれらのサイトをご覧あれ。
http://www.huffingtonpost.jp/2016/05/07/tokyo-rainbow-prode-2016-festa_n_9861226.html
http://life.letibee.com/tokyo-rainbow-pride-2016-parade/
 (この項続く)


プロフィール

tensei211

Author:tensei211
ちば・てんせい。ジャーナリスト、政治評論家。フェミニズム論、天皇論を中心に執筆活動を展開してゐる。

北海道芦別市生まれ。千葉県在住。

フェミニズム論をまとめた著作として、『男と女の戦争―反フェミニズム入門』(展転社)など。フェミニズム関係の共著に『男女平等バカ』(宝島社)、『夫婦別姓大論破』(羊泉社)などがある。

執筆には、正仮名遣ひ(歴史的仮名遣ひ)を用ゐる。

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