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Category : 幕末明治宮廷余聞
■幕末明治宮廷余聞(2)






   ▼天覧実験で中空に消え去つた軽気球





 明治十年十一月七日、明治天皇は築地の海軍兵学校に行幸された。

 海軍兵学校で、軽気球の「放揚」を天覧に供することになつてゐたのである。

 この年、西郷隆盛の西南の役が起こつた。薩軍は熊本鎮台の置かれた熊本城に襲来し、籠城する鎮台兵を薩軍が包囲した。

 この時、陸軍のなかに、軽気球を飛ばせば薩軍の状況を偵察することができるだらう。熊本城内に籠る鎮台との連絡にも使へるだらうとの議が起こつた。
 
 陸軍はすぐさま海軍に軽気球の製作を依頼し、海軍は兵学校機関科で軽気球製作にとりかかつた。

 はじめに石炭瓦斯を使つた軽気球をつくり、飛揚実験してみると成功した。しかし、戦地に石炭瓦斯を運搬するのは困難なことがわかり使用を断念した。

 次に水素瓦斯を使用することになり、気球と水素瓦斯製造機の製作に着手し、六月になつて完成した。しかしすでに熊本城の包囲は解かれたあとだつた。薩軍は壊滅状態で敗走してゐて、軽気球を使用する必要はなくなつた。軽気球は海軍兵学校にそのまま蔵しおかれた。

 西南戦争が終結して二か月後、海軍が製作した軽気球を天皇の前で「放揚」して御覧に入れるといふことになつた。

 放揚は海軍操練所において行はれ、天皇が校内の一室からそれを御覧になつた。

 この時西風が吹いてゐた。

 まず石炭瓦斯を使用した軽気球が揚げられたが、つくられてから半年たち球質が硬化してゐたため、飛揚するに至らず破裂してしまつた。

 次に水素瓦斯を使用した軽気球が揚げられた。「忽ち昇騰して凡八十間の上空に至りし」が、風が強かつたため、係留索が切れて、「気球は飄然として東方に去り、終に其の影を没す。」

 水素瓦斯の軽気球は「放揚」には成功したものの、中空に消えてしまつたのである。




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■幕末明治宮廷余聞






    ▼御製の漏洩と明治天皇



 明治天皇が詠まれた御製は九万三千余首といはれてゐる。

 明治天皇の歌道の師範が高崎正風であつた。

 明治二十一年、宮内省に御歌所がおかれ、高崎は初代の御歌所長でもあつた。

 明治天皇の御製が世の中に広まることになつたのは、明治三十年代の半ばになつてからのことだつた。まず新聞に御製が載るやうになり、それが国民の間に膾炙したのである。

 新聞には御製が頻々と出るやうになる。これを苦々しく思はれたのが明治天皇だつた。

 宮中には、御製を新聞に漏らしてゐるのは御歌所長高崎であるといふ噂が広まつた。これを聞き及んだ天皇は御前に高崎を召して注意があつた。

 高崎は耳が遠くて、お言葉がよく聞き取れない。頭を垂れたまま申上げた。

《 御製を世にお漏し申上げるのは、世道人心の上に誠に結構なことと存じ、畏れながら正風が取り計らつたことにござります。もしこれについてお咎めありますれば、正風は切腹して御申訳をいたします。》

 そして、手で腹を切る所作をした。

 老歌人のこの仕草に、近侍してゐた侍従は笑ひをこらへるのに苦労した。

 このことについて天皇から高崎に二度と沙汰はなかつた。

 ちなみに、高崎正風は薩摩藩士の家に生まれ、父は薩摩藩の後継をめぐるお由羅騒動に連座し、切腹してゐる。

 ♫「雲にそびゆる高千穂の・・・」といふ唱歌「紀元節」を高崎正風が作詞したのは御歌所長に就任したころだつた。



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tensei211

Author:tensei211
ちば・てんせい。ジャーナリスト・評論家。皇室問題やフェミニズム問題に取り組む。三島由紀夫研究家。國語問題研究家。


フェミニズム論の著作として、『男と女の戦争―反フェミニズム入門』(展転社)など。フェミニズム関係の共著に『男女平等バカ』(宝島社)、『夫婦別姓大論破』(羊泉社)などがある。

皇室関連の著作としては『天皇を喰ひ物にした侍従長』『天皇と宮内庁の「背信」』など。

執筆には正仮名遣ひ(歴史的仮名遣ひ)を使用、当ブログも正仮名遣ひを用ゐる。

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