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Category : ロシア
■プーチンとスターリン 2






  ▼北方領土強奪を正当化するための「対日戦勝記念日」




 

 ロシアの対日戦勝記念日は、日本の敗戦に付け込んだ火事場泥棒的北方領土強奪を正当化するためのもので、ロシアにとつて、対ナチスドイツの大祖国戦争勝利記念日とは甚だ意味合ひが異なる。


 ソ連軍は昭和20年8月9日、満州に侵攻して掠奪を開始。日本がポツダム宣言を受諾して降伏した8月15日、スターリンは極東軍司令官にクリール諸島(千島列島)への侵攻を命じた。

 ソ連軍が歯舞諸島までの全北方領土の侵攻を完了したのは9月5日だつた。

 ミズリー号上で日本が降伏文書に調印したのは9月2日であるから、ソ連軍はその後も強奪行為を継続してゐたわけである。

 スターリンは千島侵攻の翌日、プラウダに声明を出し、千島侵攻の理由を並べ立てた。それは連合国向け、といふよりアメリカ向けのアピールだつた。

《 天皇が行つた降伏の発表は単なる宣言にすぎない。日本軍による軍事行動停止命令は出されてゐない。・・・極東のソ連軍は対日攻撃作戦を続行する。》
 
 プラウダに声明が載つた16日、スターリンはトルーマンに、全クリール諸島のほか北海道の北半分を要求する電報を打つ。しかし、北海道侵攻はトルーマンに拒否された。

 ソ連軍が歯舞群島に上陸した9月2日、スターリンの国民向けの長い戦勝メッセージがラジオを通じて流された。

《 我が国に対する侵略を日本は1904年の日露戦争によつて開始した。帝政政府の衰えを利用して日本は背信的に宣戦布告なく我が国を攻撃した。ロシアは敗北を喫し、日本は南サハリンを横取りし、クリール諸島に地盤を固めた。》

 このスターリンメッセージは、ソ連政府の日露戦争評価を180度転換させたものとして重要な意味を持つ。

 ソ連の公式文書では、日露戦争勃発の原因と敗戦の責任は帝政ロシアにあるとされてきたからである。

 ソ連のイデオロギーを集約した「全ソ連邦共産党史小教程」では、日露戦争についてかう説明されてゐた。

《 レーニンとボリシェビキは、この掠奪戦争で帝政政府が負けたことは有益で、それがツァーリズムの弱体化をもたらし、革命の強化をもたらす、とみなしてゐた。》

 ところがスターリンは、、日露戦争は帝政ロシアに対する日本の侵略戦争にほかならないと、レーニンの教説を引つ繰り返してしまつたのである。千島列島強奪を正当化するために。

 そしてスターリンは、9月3日を「帝国主義日本に対する勝利の日」と宣言した。

 これが対日戦勝記念日の由来である。

 ソ連崩壊後もロシア連邦は9月3日の対日戦勝記念日を引き継いだが、その後、ロシア国内には新たな記念日を制定する多くの動きがあつた。

 例へば1998年には、9月2日を「軍国主義日本に対する勝利の日」とする法案が、ロシア国家院などで採択された。日本政府がこれを阻止すべく働きかけた結果、当時のエリツィン大統領が拒否権を発動して法案は廃案になつた。

 ところが2010年になつてロシアでは、9月2日を「第二次世界大戦終結の日」とする法案が議会に提出され、メドベージェフ大統領が署名して成立した。


 新記念日は、対日勝利の意義は後退したやうに見えるが、それは表向きだけのこと。

 北方領土問題に関して、新記念日はロシアにとつて次のやうなメリットがあつた。

 第一に、9月2日を対日勝利記念日とするアメリカはイギリスなどと歩調を合はせることによつて、ロシアは連合国の一員だつたと強調することができる。

 第二に、9月2日を戦争終結の日と明示することで、この日以前のソ連の行動、つまり千島侵攻を正当化することができる。

 つまり新記念日は、千島占有を正当化したいというロシアの思惑が色濃く反映したものだつたのだ。

 同国での第二次世界大戦の終結日を、ソ連時代に「対日戦勝記念日」としていた9月3日に変更する法案に署名した

 9月2日の「第二次世界大戦終結の日」がまた9月3日にもどされたのはことし4月のことだ。

 サハリン州出身の下院議員らが、ソ連時代に対日戦勝記念日として祝日にもなつてゐた9月3日に変更することを盛り込んだ法案を提出。上下両院で可決され、プーチンがこれに署名した。

 千島諸島はサハリン州の管轄下にあり、サハリン州選出の議員たちはかねてから、9月2日を「第二次世界大戦終結の日」とするのはアメリカへの追随主義だ。ソ連時代と同じやうに9月3日の「対日戦勝記念日」に戻せ、と主張してきた。

 9月3日は、中国の「人民抗日戦争及び世界反ファシズム戦争勝利記念日」でもある。
 プーチンが対日強硬派の提案に乗つたのは、中国との連携強化を図るプーチン戦略にも適つてゐたからである。

 ことしの9月3日にはモスクワで、ナチスドイツと軍国日本を打ち破つた記念日としてさぞかし盛大なパレードが行はれることだらう。

 「第二次世界大戦」はまだ終はつてゐない。

 

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■プーチンとスターリン




  ▼大祖国戦争とプーチン
   金正恩に贈られた「大祖国戦争勝利75周年」記念メダル




 ロシアのメディアによると、ロシア政府は5月5日、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長に「1941-1945年・大祖国戦争勝利75周年」記念メダルを授与した。記念メダルは、アレクサンドル・マツェゴラ駐北朝鮮ロシア大使から李善権北朝鮮外相に手渡された。

 金正恩に記念メダルが贈られたのは、「北朝鮮領土で死亡し埋葬されたソ連市民の記憶永続に対する多大な貢献、また同国内のソ連兵士の埋葬地および記念碑の維持における配慮」によるものとされる。

 大祖国戦争とは、1941年6月22日から1945年年5月9日まで、旧ソ連がナチスドイツと戦つた戦争をいふ。

 ロシア帝国に侵攻したナポレオン軍を撃退した戦争は祖国戦争と呼ばれ、スターリンはこれに倣つて対独戦を大祖国戦争と称し、ナショナリズを鼓舞したのである。

 ソ連が日本の敗戦間際に参戦した対日戦争は大祖国戦争には含まれない。

 対独戦における勝利こそが旧ソ連体制を支へる最大の国家イデオロギーだつた。

 邪悪で狂信的な軍国主義国ナチスドイツを打ち破つたのは、偉大な指導者スターリン大元帥に率いられた共産主義国ソビエト連邦である―。

 このソ連の対独戦勝利イデオロギーだけは、スターリン批判が起こつた後も揺るがす、ソ連崩壊後も生き残り、プーチン政権になると大祖国戦争賛美の度合ひが甚だしくなつた。

 そんなわけでプーチン政権は5月9日の大祖国戦争戦勝記念日を毎年盛大に祝つてきた。ことしは75周年を迎へるとあつて、プーチンも張り切つて、外国の元首クラスを招いた大規模な記念式典を予定してゐたものの、コロナウィルス禍の襲来で、5月9日の大祖国戦争戦勝記念式典は延期を余儀なくされる。

 延期を決めたのは一カ月ほど前のことだが、実際今では、ロシア国内のコロナ感染者は一日一万人の驚異的なペースで増加してゐて、戦勝記念式典どころではない。

 ロシアでは65周年、70周年など5年ごとに記念メダルを大量に作つて国内外にバラまき、ヤフーオークションなんかにもたくさん出品されてゐる。

 記念式典は延期になつてしまつたが、準備した70周年記念メダルだけは5月9日(明日だ)に合はせて配り始めてゐるらしく、金正恩に贈られたのもそのひとつといふわけだ。

 で、プーチンが延期になつた大祖国戦争戦勝記念式典の日取をいつに変へたかといふと、9月3日。

 9月3日は対日戦勝記念日である。この日に、対日戦勝記念式典と大祖国戦争戦勝記念式典を一緒にやりたい、とロシアは各国に通告したのである。

 既に報道されてゐる通り、5月9日の大祖国戦争戦勝記念日の招待にはOKを出してゐた安倍首相も、9月3日の開催なら出席しない、と断りの返事を出した。

 対日戦勝記念日に、当の日本の首相に参列をお願ひしたいとヌケヌケと言ひ出すのがロシアといふ国である。

 対日戦勝記念日は旧ソ連時代には9月3日だつた。ロシア連邦もそれを引き継いできたが、プーチン時代になつてそれが9月2日に変はり、また9月3日に戻された。

 対日戦勝記念日の変遷の裏には、ロシアの日本に対する腹黒い戦略があることを知らなければならない。

 そのことは次回に。


      (続く)
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tensei211

Author:tensei211
ちば・てんせい。ジャーナリスト・評論家。皇室問題やフェミニズム問題に取り組む。三島由紀夫研究家。國語問題研究家。


フェミニズム論の著作として、『男と女の戦争―反フェミニズム入門』(展転社)など。フェミニズム関係の共著に『男女平等バカ』(宝島社)、『夫婦別姓大論破』(羊泉社)などがある。

皇室関連の著作としては『天皇を喰ひ物にした侍従長』『天皇と宮内庁の「背信」』など。

執筆には正仮名遣ひ(歴史的仮名遣ひ)を使用、当ブログも正仮名遣ひを用ゐる。

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