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Category : 僞惡醜日本語
■僞惡醜日本語




 ▼市原豊太の「僞惡醜日本語」論


 

 昭和の時代に市原豊太といふ佛文學者がゐた。一高教授、東大教授などをつとめ、プルーストなどの多くの翻譯があり、随筆家でもあつた。この人に、「僞惡醜日本語」といふ文章がある。昭和四十一年に書かれたものである。のちに文藝春秋社の「人と思想シリーズ」の一冊として市原豊太『内的風景派』が刊行され、「僞惡醜日本語」といふ文章もこの中に収録されてゐる。

 明治の文人三宅雪嶺に「僞惡醜日本人」といふ文章があり、この顰(ひそみ)に倣つて「僞惡醜」といふ言葉を使つた、と「僞惡醜日本語」の冒頭にある。

 市原豊太が「僞惡醜」と表現した日本語とは何か。
 それは、
《昭和二十一年十一月十一月の内閣訓令の「當用漢字」と「現代かなづかい」、更にその後の「漢字の音訓表」と「送りがな」及び「外国語地名人名表記法」などで定められた表記法による日本語》
 にほかならない。

 「僞惡醜日本語」の概要を記せば以下の如くである。

   * * * * *

 漢字制限や「現代かなづかい」は、それ自体が「僞惡醜」であるばかりでなく、それを決めた過程も「僞惡醜」である。

 敗戦の翌年である昭和二十一年の秋は、国民は貧窮と混乱の極にあつて苦しんでゐた。その十一月十六日に、内閣訓令第七號「当用漢字表の実施に関する件」と同第八號「現代かなづかいの実施に関する件」が内閣総理大臣吉田茂の名で発令されたのだ。それには内閣告示として「一八五〇字の当用漢字表」と「現代語音にもとづいた現代かなづい表」が附けられてゐた。これは一般国民にとつては全く寝耳に水の沙汰であつた。

 そもそも国語・国字と変革するといふ事は、一国の文化・教育にとつて、百年千年の将来にかかる最も重大な事件である。その重大な問題が、文部省の国語審議会といふ一委員会の手によつて、提案から決定まで僅か五カ月で片附けられたのである。

 国語審議会を牛耳つてゐたのは、ローマ字論者とカナモジ論者であつた。彼らは前から考へてゐたことを、好機到れりとばかりに、国民が貧苦と苦悩にあへぐ時、どさくさ紛れに、正に火事場泥棒の如く実行したのであつた。

 心ある達識の士がこの後相ついで反対論を発表したにも拘らず、文部省は頬被りを極め込んでゐた。

 フランスは国語を大切にする国で、「アカデミー・フランセーズ」といふ国立の言語研究機関を設け、新語を正統のフランス語として認めることに頗る厳格慎重である。翻つて日本の国語政策を見ると、杜撰で、軽率で、無謀極まりない。

 戦後の「僞惡醜」の決め方をした国語審議会の決定を、御破算にして、白紙に還して、慎重に、百年千年の日本文化のために、悔いを残さぬやうな再審議をするべきである。

   * * * * *
  
 以上は「僞惡醜日本語」の概要にすぎない。本文には、「現代かなづかい」と漢字制限により破壊され、乱りに乱れた日本語の事例がふんだんに挙げられてゐる。
 
 市原豊太は国語審議会の第七期の委員でもあつた。審議会では「大部暴れた」ものの、大勢を動かすには至らなかつた。この一文の副題を、「鱓(ごまめ)の歯軋り」とした所以である。

 市原豊太が、三宅雪嶺の顰に倣つて「僞惡醜日本語」を書いたやうに、小ブログも市原豊太の顰に倣つて「僞惡醜日本語」を綴つてゆくことにしよう。











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Author:tensei211
ちば・てんせい。ジャーナリスト・評論家。皇室問題やフェミニズム問題に取り組む。三島由紀夫研究家。國語問題研究家。


フェミニズム論の著作として、『男と女の戦争―反フェミニズム入門』(展転社)など。フェミニズム関係の共著に『男女平等バカ』(宝島社)、『夫婦別姓大論破』(羊泉社)などがある。

皇室関連の著作としては『天皇を喰ひ物にした侍従長』『天皇と宮内庁の「背信」』など。

執筆には正仮名遣ひ(歴史的仮名遣ひ)を使用、当ブログも正仮名遣ひを用ゐる。

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