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●安倍談話の「侵略」明記はナベツネの圧力か?(承前)
「侵略」4点セットに慰安婦謝罪までおまけした理由(わけ)
 女性支持ほしさの世論迎合が安倍談話の本質


 安倍談話の「侵略」「植民地支配」「お詫び」「反省」の4点セット明記は読売ナベツネの圧力でした、なんて単純な話でないことは、安倍官邸が4点セットの地ならしを行つてゐたことからも判然とする。地ならしそのお先棒をかついだのが、たとへばNHKである。

 NHKは8月11日のニュースで、戦後70年談話に関する次のやうなNHK世論調査結果を放送した。

《 談話 おわび「盛り込んだほうがよい」42%

NHKの世論調査で、安倍総理大臣が戦後70年のことし発表する談話に「過去の植民地支配と侵略に対するおわび」を盛り込んだほうがよいと思うか尋ねたところ、「盛り込んだほうがよい」が42%、「盛り込まないほうがよい」が15%でした。

NHKは今月7日から3日間、全国の20歳以上の男女を対象に、コンピューターで無作為に発生させた番号に電話をかける「RDD」という方法で世論調査を行い、調査対象の65%に当たる1057人から回答を得ました。
この中で、安倍総理大臣が戦後70年のことし発表する予定の談話の中に「過去の植民地支配と侵略に対するおわび」を盛り込んだほうがよいと思うか尋ねたところ、「盛り込んだほうがよい」が42%、「盛り込まないほうがよい」が15%、「どちらともいえない」が34%でした。》

 そのものズバリ、談話に「過去の植民地支配と侵略に対するおわび」を盛り込んだはうがよいか、盛り込まないはうがよいかと聞いた世論調査なのだ。

 結果は、「盛り込んだほうがよい」が42%で、「盛り込まないほうがよい」の15%を圧倒した。今の日本で、過去の戦争絡みの、この手の世論調査をやれば回答結果はまづこんなものだらう。

 回答結果はやる前から見えてゐる世論調査をNHKが8月11日といふタイミングで発表したのはなぜか?

 周知のやうに今のNHKは安倍官邸に至極従順な国営放送である。安倍談話に関するこの世論調査をNHKが安倍官邸の意に反して実施したと考へる馬鹿はゐないだらう。この時期、安倍官邸が一番出してほしい世論調査結果を、安倍官邸の意をくんでNHKがプレゼントした。さう考へるのが自然といふものだ。

 「侵略4点セットを盛り込むのは世論の声でもあります」―早々と4点セットを談話に盛り込むことを決めてゐた安倍官邸が、次に切望したのが「世論の声」だ。その土壌づくりに安倍御用放送局が協力したとしても不思議ではない。

 21世紀構想懇談会の北岡伸一座長代理は、安倍談話は「期待以上に踏み込んだものだつた」と手放しの喜びやうだが、慰安婦問題への言及もかれらにとつて「期待以上」だつたに違ひない。

 安倍談話は言ふ。

《戦場の陰には、深く名誉と尊厳を傷つけられた女性たちがいたことも、忘れてはなりません。》

《私たちは、二十世紀において、戦時下、多くの女性たちの尊厳や名誉が深く傷つけられた過去を、この胸に刻み続けます。だからこそ、我が国は、そうした女性たちの心に、常に寄り添う国でありたい。二十一世紀こそ、女性の人権が傷つけられることのない世紀とするため、世界をリードしてまいります。》

 慰安婦らに対する日本政府としての明白な謝罪である。しかも、パラフレーズする形で、二度にわたつて言及するといふ念の入れやうだ。

 慰安婦問題つに関する謝罪は村山談話や小泉談話にもなかつたものだ。村山談話と小泉談話には慰安婦問題への言及すらなかつた。安倍談話のヨイショ作業に早速取りかかつた御用言論人たちは、もちろん安倍談話にある慰安婦問題謝罪など無視を決め込んでゐる。

 安倍首相といふ人は、女性、女性と連呼すれば女性の支持率が増へると思つてゐる。彼のフェミズム路線の根底にあるのは対女性ポピュリズムである。引用した安倍談話の文章をもう一度読んでごらんなさい。「女性」といふ言葉が実に4回も連呼されるのだ。
 
 過去に「河野談話」を「追及」した人物が河野談話の上塗りをする。談話の上書きではない、上塗り。恥の上塗りといふやつだ。
恥を知れといいたいところだが、そもそもこの人物には恥といふ感情がもともと稀薄な上に、最近は病気で使用してゐる薬剤の副作用で極端な情緒不安定症状に陥つてゐるらしいから、何を言つても無駄である。

 やがて安倍政権が倒れたら、そのあとには恥の上塗り談話だけが疫病神の標柱のやうに残されるのであらう。

  **************

 参考までに安倍談話の全文を下に掲げておく。下線部が慰安婦問題への言及である。下線部がなくても、侵略など4点セットだけで謝罪談話としての構成要件は十分満たしてゐるが、下線部があることによつて、謝罪談話に「精彩」を加へ、謝罪談話としての「完璧性」が増したことが読みとれると思ふ。




平成27年8月14日 内閣総理大臣談話

 終戦七十年を迎えるにあたり、先の大戦への道のり、戦後の歩み、二十世紀という時代を、私たちは、心静かに振り返り、その歴史の教訓の中から、未来への知恵を学ばなければならないと考えます。

 百年以上前の世界には、西洋諸国を中心とした国々の広大な植民地が、広がっていました。圧倒的な技術優位を背景に、植民地支配の波は、十九世紀、アジアにも押し寄せました。その危機感が、日本にとって、近代化の原動力となったことは、間違いありません。アジアで最初に立憲政治を打ち立て、独立を守り抜きました。日露戦争は、植民地支配のもとにあった、多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけました。

 世界を巻き込んだ第一次世界大戦を経て、民族自決の動きが広がり、それまでの植民地化にブレーキがかかりました。この戦争は、一千万人もの戦死者を出す、悲惨な戦争でありました。人々は「平和」を強く願い、国際連盟を創設し、不戦条約を生み出しました。戦争自体を違法化する、新たな国際社会の潮流が生まれました。

 当初は、日本も足並みを揃えました。しかし、世界恐慌が発生し、欧米諸国が、植民地経済を巻き込んだ、経済のブロック化を進めると、日本経済は大きな打撃を受けました。その中で日本は、孤立感を深め、外交的、経済的な行き詰まりを、力の行使によって解決しようと試みました。国内の政治システムは、その歯止めたりえなかった。こうして、日本は、世界の大勢を見失っていきました。

 満州事変、そして国際連盟からの脱退。日本は、次第に、国際社会が壮絶な犠牲の上に築こうとした「新しい国際秩序」への「挑戦者」となっていった。進むべき針路を誤り、戦争への道を進んで行きました。

 そして七十年前。日本は、敗戦しました。

 戦後七十年にあたり、国内外に斃れたすべての人々の命の前に、深く頭を垂れ、痛惜の念を表すとともに、永劫の、哀悼の誠を捧げます。

 先の大戦では、三百万余の同胞の命が失われました。祖国の行く末を案じ、家族の幸せを願いながら、戦陣に散った方々。終戦後、酷寒の、あるいは灼熱の、遠い異郷の地にあって、飢えや病に苦しみ、亡くなられた方々。広島や長崎での原爆投下、東京をはじめ各都市での爆撃、沖縄における地上戦などによって、たくさんの市井の人々が、無残にも犠牲となりました。

 戦火を交えた国々でも、将来ある若者たちの命が、数知れず失われました。中国、東南アジア、太平洋の島々など、戦場となった地域では、戦闘のみならず、食糧難などにより、多くの無辜の民が苦しみ、犠牲となりました。戦場の陰には、深く名誉と尊厳を傷つけられた女性たちがいたことも、忘れてはなりません。

 何の罪もない人々に、計り知れない損害と苦痛を、我が国が与えた事実。歴史とは実に取り返しのつかない、苛烈なものです。一人ひとりに、それぞれの人生があり、夢があり、愛する家族があった。この当然の事実をかみしめる時、今なお、言葉を失い、ただただ、断腸の念を禁じ得ません。

 これほどまでの尊い犠牲の上に、現在の平和がある。これが、戦後日本の原点であります。

 二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない。

 事変、侵略、戦争。いかなる武力の威嚇や行使も、国際紛争を解決する手段としては、もう二度と用いてはならない。植民地支配から永遠に訣別し、すべての民族の自決の権利が尊重される世界にしなければならない。

 先の大戦への深い悔悟の念と共に、我が国は、そう誓いました。自由で民主的な国を創り上げ、法の支配を重んじ、ひたすら不戦の誓いを堅持してまいりました。七十年間に及ぶ平和国家としての歩みに、私たちは、静かな誇りを抱きながら、この不動の方針を、これからも貫いてまいります。

 我が国は、先の大戦における行いについて、繰り返し、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明してきました。その思いを実際の行動で示すため、インドネシア、フィリピンはじめ東南アジアの国々、台湾、韓国、中国など、隣人であるアジアの人々が歩んできた苦難の歴史を胸に刻み、戦後一貫して、その平和と繁栄のために力を尽くしてきました。

 こうした歴代内閣の立場は、今後も、揺るぎないものであります。

 ただ、私たちがいかなる努力を尽くそうとも、家族を失った方々の悲しみ、戦禍によって塗炭の苦しみを味わった人々の辛い記憶は、これからも、決して癒えることはないでしょう。

 ですから、私たちは、心に留めなければなりません。

 戦後、六百万人を超える引揚者が、アジア太平洋の各地から無事帰還でき、日本再建の原動力となった事実を。中国に置き去りにされた三千人近い日本人の子どもたちが、無事成長し、再び祖国の土を踏むことができた事実を。米国や英国、オランダ、豪州などの元捕虜の皆さんが、長年にわたり、日本を訪れ、互いの戦死者のために慰霊を続けてくれている事実を。

 戦争の苦痛を嘗め尽くした中国人の皆さんや、日本軍によって耐え難い苦痛を受けた元捕虜の皆さんが、それほど寛容であるためには、どれほどの心の葛藤があり、いかほどの努力が必要であったか。

 そのことに、私たちは、思いを致さなければなりません。

 寛容の心によって、日本は、戦後、国際社会に復帰することができました。戦後七十年のこの機にあたり、我が国は、和解のために力を尽くしてくださった、すべての国々、すべての方々に、心からの感謝の気持ちを表したいと思います。

 日本では、戦後生まれの世代が、今や、人口の八割を超えています。あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません。しかし、それでもなお、私たち日本人は、世代を超えて、過去の歴史に真正面から向き合わなければなりません。謙虚な気持ちで、過去を受け継ぎ、未来へと引き渡す責任があります。

 私たちの親、そのまた親の世代が、戦後の焼け野原、貧しさのどん底の中で、命をつなぐことができた。そして、現在の私たちの世代、さらに次の世代へと、未来をつないでいくことができる。それは、先人たちのたゆまぬ努力と共に、敵として熾烈に戦った、米国、豪州、欧州諸国をはじめ、本当にたくさんの国々から、恩讐を越えて、善意と支援の手が差しのべられたおかげであります。

 そのことを、私たちは、未来へと語り継いでいかなければならない。歴史の教訓を深く胸に刻み、より良い未来を切り拓いていく、アジア、そして世界の平和と繁栄に力を尽くす。その大きな責任があります。

 私たちは、自らの行き詰まりを力によって打開しようとした過去を、この胸に刻み続けます。だからこそ、我が国は、いかなる紛争も、法の支配を尊重し、力の行使ではなく、平和的・外交的に解決すべきである。この原則を、これからも堅く守り、世界の国々にも働きかけてまいります。唯一の戦争被爆国として、核兵器の不拡散と究極の廃絶を目指し、国際社会でその責任を果たしてまいります。

 私たちは、二十世紀において、戦時下、多くの女性たちの尊厳や名誉が深く傷つけられた過去を、この胸に刻み続けます。だからこそ、我が国は、そうした女性たちの心に、常に寄り添う国でありたい。二十一世紀こそ、女性の人権が傷つけられることのない世紀とするため、世界をリードしてまいります。

 私たちは、経済のブロック化が紛争の芽を育てた過去を、この胸に刻み続けます。だからこそ、我が国は、いかなる国の恣意にも左右されない、自由で、公正で、開かれた国際経済システムを発展させ、途上国支援を強化し、世界の更なる繁栄を牽引してまいります。繁栄こそ、平和の礎です。暴力の温床ともなる貧困に立ち向かい、世界のあらゆる人々に、医療と教育、自立の機会を提供するため、一層、力を尽くしてまいります。

 私たちは、国際秩序への挑戦者となってしまった過去を、この胸に刻み続けます。だからこそ、我が国は、自由、民主主義、人権といった基本的価値を揺るぎないものとして堅持し、その価値を共有する国々と手を携えて、「積極的平和主義」の旗を高く掲げ、世界の平和と繁栄にこれまで以上に貢献してまいります。

 終戦八十年、九十年、さらには百年に向けて、そのような日本を、国民の皆様と共に創り上げていく。その決意であります。

平成二十七年八月十四日
                 内閣総理大臣  安倍 晋三








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●安倍談話の「侵略」明記はナベツネの圧力か?
 


 週刊新潮8月27日号は《「70年談話がぬえになった「安倍内閣」の焦燥》《安倍総理を委縮させた大新聞の圧力》といふ特集記事を掲載してゐる。

 筋書だけ解説すると、戦後レジームからの脱却を掲げてきた安倍首相の戦後70年談話が、蓋をあけてみたら村山談話・小泉談話に呪縛された内容になつてゐた。その最大の理由は、読売新聞の圧力にあつたといふものだ。

 21世紀構想懇談会を実質的に取り仕切つた北岡伸一座長は読売新聞の渡辺恒雄会長と非常に近く、「私は日本は侵略したと思つてゐる。安倍総理にも侵略と言つてほしい」などといふ一連の北岡発言は渡辺会長の意を受けた発言で、首相周辺には「これはナベツネ談話」「政権としても抵抗のしようがない」と北岡の主張を受け入れるしかないといふ空気が生まれた。

 読売新聞は4月以来、《戦後70年談話、首相は「侵略」を避けたいのか》と社説で「侵略」明言を迫るなど、談話に「「侵略」を盛り込むことを繰り返し紙面で要求してきた。その主張は6回に及び、朝日、毎日の4回を上回る。安倍首相も「村山談話と同じになるのであれば、新たに談話を出す必要はない」などと抵抗してゐたが、3人の憲法学者が「集団的自衛権は意見」と明言した直後から支持率が急降下し、安保法案の成立が危ぶまれる事態に陥つた。このタイミングで渡辺会長から安倍首相に「読売グループが法案の成立に紙面で協力する代はりに侵略といふ文言を談話に盛り込む」といふ交換条件がもたらされた。

 かくて安保法案は7月16日に衆議院を通過し、談話の原案は4日後の20日頃に完成。そこには「侵略」を含む4点セットがすべて盛り込まれてゐた――。安倍首相が読売ナベツネ帝王の軍門に下つたというストーリーである。

 たしかに、読売の「侵略」入れろキャンペーンは尋常ではなく、安倍談話を報じる8月15日の朝刊など、1面、2面、3面、4面、さらに8面、9面、10面までブチ抜いて関連記事を満載。
《首相「反省とおわび」継承》
《「侵略」「植民地」も言及》
《新たに「悔悟」を明記》
《村山・小泉談話は継承》
《侵略 首相明確に認める》
といふ見出しだけ見ても、この新聞の欣喜雀躍ぶりがみてとれる。

 新潮の記事によると、元共産党員であるナベツネがお里を丸出しにして、安倍談話に「侵略」を明記させろと大本営大号令を社内に発したといふとことになつてゐる。

 とても分かりやすいストーリーである。話としては面白いし、ナベツネが社内に大号令を発して安倍首相に圧力をかけようとしたのも事実かもしれない。しかし、ナベツネの圧力だけで安倍談話に4点セットが盛り込まれたとはとても思へない。

 21世紀懇の北岡座長代理とナベツネとの関係にしても、第一、有識者会議を発足させたのは安倍首相なのだし、その運営を事実上北岡に委ねたのも安倍首相である。北岡を日中歴史共同研究の日本側トップに指名したのも安倍首相で、北岡は日中歴史共同研究の報告書にも「侵略」を明記してゐるのだから、彼の侵略史観は安倍首相も重々承知の上で21世紀懇の座長代理に起用したとしか考へられない。

 21世紀懇の議論がスタートする前、北岡が「安倍首相にも侵略と言つてほしい」とある民間会合で語つた時には、世耕官房副長官も同席してゐた。世耕は安倍の側近中の側近である。21世紀懇における北岡の「侵略」路線は明らかに安倍官邸公認のもので、最終報告書に「侵略」が盛り込まれることも安倍官邸の想定内だつた。

 安倍談話が出た翌日の読売朝刊が、21世紀懇・北岡座長代理のコメントを載せてゐる。

「(安倍首相が)どの程度、報告書の内容を受け入れてくれるか、若干の不安はあった。しかし、結果は期待以上に踏み込んだものだった。」

 侵略史観に凝り固まつた北岡が安倍談話を「期待以上」と評価した。これは何を意味するか?

(この項続く)





●安倍談話が「評価」された理由を隠蔽する御用新聞
 空恐ろしい侵略史観の大政翼賛会化


 安倍首相は戦後70年談話を支持率低下に歯止めをかけるのに利用し、侵略史観に急転換を図つたといふ私の分析を裏付けてくれるかのやうに、産経新聞と読売新聞は早速18日付けの朝刊で、安倍談話に関する世論調査結果を掲げた。産経などは、70年談話「評価」57%、内閣支持率上昇43%と、安倍首相の目論みが成功したことを嬉しさうに報じ、安倍御用新聞の名に恥じぬ忠犬ぶりを示してゐる。

 もつとも産経新聞も、上昇率3・8ポイント程度であんまりはしやぐのはどうかと考へたのか、はたまた自虐談話に踏み込んだしてはこの数字は物足りないと判断したのか知らないが、一面ではなく二面での扱いになつてゐる。

 片や読売新聞は、一面に70年談話「評価」48%といふ見出しを大書。しかし見出しでは内閣支持率には触れず、本文で、「支持率は45%で前回調査の43%のほぼ横ばいだった」と書く。なるほど2ポイントの上昇では、「上昇」と見出しにとるのは気がひけるだらう。

 読売の世論調査は、安倍談話を「評価」した理由が村山談話化にあることが露見しないやう設問に周到な工作が施され、設問からは「侵略」と「植民地支配」の文言が外されてゐる。

 「戦後レジームからの脱却」なんて言つてゐた総理大臣が政権延命の窮余策としてなりふりかまはず侵略史観派に鞍替へして、東京裁判史観にかうべをたれる。そしてアメリカと中韓のご機嫌をうかがふ。御用ジャーナリズムや御用学者らはその姿勢を批判するどころか、こぞつて侵略談話を歓迎し、「バランスのとれた談話」と賞賛する。御用学者用語では、自虐史観批判派が自虐史観派に転向することを「バランスがとれた」と表現される。白を黒と言ひくるめことにたけた御用ジャーナリズムと御用学者の習性は、朝日新聞とそれにつらなるサヨク学者の習性と異なるところはない。低級ジャーナリズムの習性なんて右も左も同じなのだ。

 安倍首相は談話の発表会見で、侵略史観に彩られた21世紀構想懇談会の報告書を「歴史の声」などと利いた風なセリフを吐いて、自分の侵略史観を正当化した。今、御用ジャーナリズムと御用学者たちは、懇談会報告書に「侵略」を盛り込むことに反対した人物(ひとりは中西輝政氏らしい)を、その良心をたたへるどころか、場違ひなことをしでかした道化でもあるかのやうに、うさんくさい目つきでながめてゐる。我が国に侵略史観の大政翼賛会化とも呼ぶべき恐ろしい事態が進行しつつあることはもはや疑ひもない。



●虚偽とごまかしに満ちた戦後70年安倍談話
 「侵略」「お詫び」等の挿入は公明との出来レース
 支持率急落に怯えて村山談話に急接近した安倍首相




 無学な安倍首相もその名前くらいは知つてゐるであらう、東京裁判において日本人被告全員の無罪を主張したインドのパール判事はその判決文の最後をこのやうに締めくくつてゐる。

《時が熱狂と偏見をやわらげた暁には、また理性が虚偽からその仮面を剥ぎ取つた暁には、そのときこそ、正義の女神はその秤を平衡に保ちながら過去の賞罰の多くにその所を変へることを要求するであらう。》

、 日本侵略史観に全身全霊をもつて立ち向かつたパール博士は、時が東京裁判の虚偽を剥ぎ取ることを信じてゐた。しかし、どうやら敗戦後70年といふ時間は、パール博士の想定した「時」にはまだまだ不足してゐるらしい。戦後70年もたつといふのに、日本の総理大臣がその談話に「侵略」「お詫び」「反省」などの文言を入れるか入れないかですつたもんだし、挙句に完成した談話には「植民地支配」「侵略」「お詫び」「反省」の4点セットが見事に盛り込まれたのだ。虚偽とごまかしに満ちた談話を、あたかも何か画期的な文書であるかのごとく得々と披瀝する日本国総理大臣。地下のパール博士はこの光景を眺めて何と言ふであらうか。

 安倍談話の中で、ごまかしの最たるものは次の文言だらう。

《あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません。》

 村山やら小泉やらの売国総理大臣が日本の「植民地支配」と「侵略」と「お詫び」を大々的に世界に喧伝したから、今の子供たちは謝罪意識を刷り込まれてゐるのだ。村山と小泉の驥尾に付して自分も「植民地支配」と「侵略」と「お詫び」と「反省」をご丁寧に盛り込んだ談話を作成しておきながら、「先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」もないものだ。これがごまかしでなくてなんであらうか。

 安倍談話でさらに許しがたいのは、このくだりである。

《我が国は、先の大戦における行いについて、繰り返し、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明してきました。その思いを実際の行動で示すため、インドネシア、フィリピンはじめ東南アジアの国々、台湾、韓国、中国など、隣人であるアジアの人々が歩んできた苦難の歴史を胸に刻み、戦後一貫して、その平和と繁栄のために力を尽くしてきました。

こうした歴代内閣の立場は、今後も、揺るぎないものであります。》

 村山談話と小泉談話に自分が同調すると言明するのみならず、「こうした歴代内閣の立場は、今後も、揺るぎないものであります」とシャーシャーと言つてのけてゐるのだ。「今後も」といふ意味は、この先短命に終はるであらう自分の内閣のことだけではなく、今後の日本の内閣も含めてのことらしい。今後の日本の内閣が村山談話・小泉談話の立場で「揺るぎない」と言ひ切るなど、一首相としての立場をわきまえない暴言、といふより空論である。将来、まともな歴史観とそれを実行に移す能力を持つた首相が出て、「村山談話・小泉談話(それから安倍談話)は間違つてゐる」と世界に表明してくれる総理大臣が日本に出現しないと誰が断言できるのか。「揺るぎない」なんてこんな時に持ち出す文言ではない。
 
 安倍首相にとつて今一番恐いのは内閣支持率の低下である。安倍首相が過去にあれほど疑問を呈してきた村山談話に急接近したのは、支持率低下と無関係とは思はれない。支持率低下に歯止めをかけて安保法制を通すにはどうしたらよいか? 安倍首相の平和主義者としての姿勢を国民にアピールすること。丁度いい、戦後70年談話で、平和を愛する安倍首相をアピールしよう。かくて、戦後70年首相談話が支持率低下歯止めとして犠牲に供されたといふのが真相である。

 安倍首相が当初公明党に示した談話の原案には、侵略の文言もお詫びの文言も見当たらなかつた。これに対して公明党が不満を表明する。そして公明党の主張を容れて最終的に植民地支配、侵略、お詫び、反省の4点セットが安倍談話盛り込まれたといふことになつてゐる。安倍官邸と公明党とのあまりに見え透いた出来レースである。

 支持率低下に怯えた安倍官邸は、談話に侵略やお詫びを入れることをおそらく7月あたりに決めてゐた。しかし安倍首相の意志で侵略やお詫びを談話に入れたといふのでは(愚民)保守たちが納得しない。なんといつても安倍政権支持層のコアの部分は、安倍首相を真正保守と信じて疑はない(愚民)保守層なのだ。(愚民)保守層が安倍離れを起こせば、第一次政権時と同じやうに内閣支持率は完全に底割れしてしまふ。そこで安倍官邸団が考へついたのが、公明の要求によつて安倍首相は談話に侵略やお詫びを入れざるをえなくなつたといふエクスキューズだ。

 安保関連法案問題で創価学会員は公明党離れを起こしてゐるといはれるが、公明党の主張を受けて安倍首相が侵略やお詫びを入れたとなれば、公明党にとつて創価学会員に向けたこれほどいい宣伝はない。自民党にとつても800万といはれる創価学会票のつなぎとめにはかりしれない効果を期待できる。

 以上のことをとてもわかりやすく表現すると、安倍首相は支持率低下に歯止めをかけて政権を延命させるために戦後70年談話を「売つた」といふことになるのかもしれない。

 戦後70年の首相談話など出さずにすむこともできたのに安倍首相はそのやうにはしなかつた。わざわざ日本侵略史観の持ち主たちが多数を占める(最終的に「侵略」の表現に反対したのは二人のみ)有識者会議まで設けたことで、首相談話に対する近隣諸国の関心をいやが上にも高め、中国や韓国を対日攻勢に駆り立てた。

 安倍首相の昨今の、いや第一次政権以来の迷走ぶりを見てゐると、ラ・ロシュフコーの次のやうな箴言を思ひ起こさずにはゐられない。

 「世には、頓馬に生まれついた人がある。みずから好き好んで頓馬なことをするばかりでなしに、運命までが頓馬なことをするやうに強いた人間である。」


 このやうな人物がいまだに総理の座にとどまつてゐるのは、ただただ日本の不幸といふしかない。

 今を去る三十数年前、若き日の安倍晋三は外務大臣である父安倍晋太郎の秘書官をつとめてゐた。秘書官の仕事がイヤでたまらない彼は仕事をそそくさと切り上げると、毎日マンガとテレビゲームに熱中してゐた。安倍首相よ、悪いことはいはない、一刻も早く総理大臣なんかやめて、マンガとゲームの世界に戻つた方がいい。国をこれ以上誤らないためにも。




プロフィール

tensei211

Author:tensei211
ちば・てんせい。ジャーナリスト、政治評論家。フェミニズム論、天皇論を中心に執筆活動を展開してゐる。

北海道芦別市生まれ。千葉県在住。

フェミニズム論をまとめた著作として、『男と女の戦争―反フェミニズム入門』(展転社)など。フェミニズム関係の共著に『男女平等バカ』(宝島社)、『夫婦別姓大論破』(羊泉社)などがある。

執筆には、正仮名遣ひ(歴史的仮名遣ひ)を用ゐる。

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