■小保方晴子さんへの手紙(第六信)

 小保方さんはなぜクビにならなかつたのでせうか?



 冠省

 本日行はれた理化学研究所の記者会見、興味深く観てをりました。

「STAP細胞」論文不正事件で、理研が調査委員会最終報告の記者会見をすると聞いて、私は小保方晴子さんの解雇がその場で発表される可能性について0.01%くらゐ、STAP細胞の再現実験の確率くらゐはあるかなと一瞬考へました。

 そんな無茶苦茶なとあなたは仰るかもしれませんが、例のベル研究所の論文捏造事件で数多の不正が認定されたヤン・ヘンドリック・シェーンをベル研は調査委員会報告書を公開した当日に解雇してゐるのですね。2002年9月25日のことです。

 解雇通告後、ベル研の人間がシェーンに箱をいくつか渡し、荷物をまとめるよう言つた。ペンや鉛筆を数本入れた荷物をもつて部屋を出た彼は「ここで研究ができたことを嬉しく名誉に思います」と言ひ残して去つたさうです。翌日、街で姿が目撃されたのを最後に彼が消息を絶つたことは前に書いた通りです。

 ベル研にももちろん処分に対する不服申し立て制度はあつたでせう。それから、あれだけの訴訟社会ですから、シェーンが訴訟を起こして争ふこともできた。しかし、ベル研調査委は調査の過程でシェーンの言ひ分や弁明を繰り返し聞いてゐるのですね。といふより、調査委はシェーンの口から言ひわけでも反論でも何でもいいから聞きたがつた。調査を打ち切るときにも、最後になにか言ふことはないかと重ねて聞いてゐる。おそらくベル研側は、解雇してもシェーンは何も反撃してこないだらうといふ心証を得たからこそ、最も重い処分に踏み切つたのに相違ありません。

 余談ですが、ベル研の論文捏造事件といへば、シェーンは実験ノートといふものを一冊も残してゐなかつたさうです。調査委員会には分厚い資料を渡したが、それらはみなオリジナルデータではなく、様々な資料の単なるプリントアウトだつた由。

 それからシェーンは、コンピュータにデータが残つてゐなかつたことについて、自分のコンピュータは古い機種で記憶容量が十分でなかつたから、生データは自分の手で消去したと釈明した由。

 あなたが実験ノートを2冊しか残してゐなかつたとか、理研のデスクトップは使用してゐなかつたと説明したと聞いて、ふとシェーンのエピソードを思ひ出した次第です。

 さて、先ほど私は小保方晴子さんが解雇される可能性は0.01%くらゐ想定してゐた申し上げましたが、どうやらそれは理研に対する私の「買ひかぶり」であつたらしい。本日の会見を聞いてよく納得できました。

 まあ、よく考へてみると、理研側には小保方さんを解雇などできない山ほどの理由がある。理研側の事情とは、あなたが今回の不正認定に承服してゐないとか、不服申し立てするとかの問題とは別の話です。

 あなたを「未熟」呼ばわりした中間報告時の態度から一転、あなたをハレ物扱ひするやうになつた理研首脳部の態度の豹変は何を意味するのか?

 そのことはまた改めて。

 ただここでは、次のことだけ御指摘を。
 
 今日の会見で明らかになつたこと。

 ひとつは、あなたの残した実験ノートや多少のサンプルのみではSTAPの再現は到底不可能であると理研側が気付いてしまつたこと。

 もうひとつは、理研は今回の六項目以外の問題で、「不正」を追及する気がまるでないこと。

 この二点です。

 このことがあたなたにとつて吉と出るか凶と出るか。深甚なる関心を抱かざるをえません。

 ではまた。


                             怱々

 平成二十六年四月一日

                       千葉展正

小保方晴子様

                                 




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プロフィール

tensei211

Author:tensei211
ちば・てんせい。ジャーナリスト、政治評論家。フェミニズム論、天皇論を中心に執筆活動を展開してゐる。

北海道芦別市生まれ。千葉県在住。

フェミニズム論をまとめた著作として、『男と女の戦争―反フェミニズム入門』(展転社)など。フェミニズム関係の共著に『男女平等バカ』(宝島社)、『夫婦別姓大論破』(羊泉社)などがある。

執筆には、正仮名遣ひ(歴史的仮名遣ひ)を用ゐる。

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