■小保方晴子さんへの手紙(第七信)

 小保方さんを変心させた調査委員会の茶番劇




 冠省

 お手紙を書かうとしてゐたら、飛び込んできたのが小保方さんが九日に記者会見を開くといふニュース。

 記者会見に出席することにした小保方さんの御英断に敬意を表します、と言ひたいところですが、このニュースに接して私は頭のどこかで「匹夫の勇」といふ格言を思ひ浮かべてしまひました。

 「匹夫の勇」の出典は御承知のやうに孟子ですね。「匹夫」とは本来男性を指す言葉で、女性の場合は「匹婦」と書きますから、あなたの場合はさしづめ「匹婦の勇」といふことになるでせうか。

 手紙の冒頭からいきなり失礼なことを申し上げてしまひました。お許し下さい。

 ともあれ、小保方さんが記者会見を開かれることで、いよいよ「STAP細胞」論文不正事件の第二幕の幕が切つて落とされることになつたわけです。

 それにしても、理研が4月1日に開いた調査委員会最終報告の記者会見はひどいものでしたね。

 調査委員会が最終的に認定したのは小保方さんの捏造1件、改竄1件の計2件。理研はこの2件の不正に関して、小保方さんの処分を決めると言つてゐる。

 摩訶不思議とはこのことです。通常の社会においては、ある人間を裁く(司法的な意味でなく)ためには、その人間のなした不正をすべて解明してからではなくては、処分などできないはずです。

 なるほど、重大な不正が見つかり、その事案だけでも処分に値するといふ場合もあるでせう。でも、その事案を調べていつたら最初の不正認定が誤りだつたことが分かつたとか、最初に下した不正認定の評価にも影響を与へる可能性も十分ありうる。

 あるひはまた逆に(恐縮ですが刑事事件を例にとると)、窃盗事件犯の余罪を調べていつたら、この犯人が実は殺人も犯してゐたことも明らかになつたといふこともありうる。すみません、例が悪すぎました。

「STAP細胞」論文に関しては、調査委が調査対象とした6件にも様々な疑義が指摘されてゐます。最も重要なのは山梨大学の若山教授からは提出された疑義、すなはち、あなたから受け取つた細胞は若山教授が渡したものとは別のマウスの細胞だつたといふ疑義です。

 若山教授はネット上の匿名の告発者などではない。れつきとしたSTAP細胞の共同研究者で、STAP細胞論文の共著者です。この方から、理研側(小保方さん)から渡された細胞のサンプルについて公然と疑義が表明されてゐる。

 そんな重大な疑義さへ頬冠りしたまま調査を打ち切るのは、そもそも調査委員会の名に値しないといつていい。共同研究者に対する背信行為でもあります。

 調査委員会がといふより、理研側がこの調査対象がこの6項目に限定した理由は誰の目にもはつきりしてゐる。6項目はすべて小保方さんの単独行為だからです。6項目以外に調査対象を広げれば、一体何が飛び出してくるか知れない。他の研究者の関与も明るみに出るかもしれない。これは理研にとつて悪夢に等しい。「特定国立研究開発法人」の指定など吹き飛んでしまふかもしれない。

 そこで、理研は、文部科学省から最終報告を早く出せとせつつかれてゐるのをいいことに、これ幸ひとばかり、調査委を早々と終結させてしまつたといふわけですね。
 
 理研の対小保方攻略方針とは簡単にいへば、
「2件の不正を認めろ。その代はり、それ以外の不正は不問に付してやる」
 といふものですね。実に姑息なおためごかしと言ふしかありません。

 しかし、理研のこの方針はあまたにとつては実に悩ましいものだつたはづです。両刃の剣といふか、一方では、許しがたいことであり、他方では、歓迎すべきことでもあつた。

 許しがたいといふのは、言ふまでもなく、不正があなた一人の責任とされて、一件落着とされるといふ怒りです。

 歓迎すべきことといふのは、6項目以外の不正はもう追及されることはない、といふ安堵感です。
 
 それはあなたにとつて、とりあへず6項目に関する反論理由だけ考へればいいといふことを意味した。

 最終報告の会見のあと、小保方さんが発表されたコメントに私は、「憤り」の感情ばかりではなく、後者の感情もほんの少しばかり読み取りました。

 調査委があなたの言ひ分を会見で一切秘してゐたことに対するあなたの、「憤り」はよく理解できます。しかし。私はコメントに書かれた内容をあなたが調査委で説明した時期に興味がある。それは、6項目以外のことは追及されないといふ安堵感が生まれた時期、あるひは、あなたが心中強気に転じた時期と重なるかもしれない。

 これに関して私が思ひ起こすのは、やはりベル研論文捏造事件なんですね。

 このことは次のお手紙で。
 

                             怱々

 平成二十六年四月七日

                            千葉展正 

小保方晴子様                

                               



 


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プロフィール

tensei211

Author:tensei211
ちば・てんせい。ジャーナリスト、政治評論家。フェミニズム論、天皇論を中心に執筆活動を展開してゐる。

北海道芦別市生まれ。千葉県在住。

フェミニズム論をまとめた著作として、『男と女の戦争―反フェミニズム入門』(展転社)など。フェミニズム関係の共著に『男女平等バカ』(宝島社)、『夫婦別姓大論破』(羊泉社)などがある。

執筆には、正仮名遣ひ(歴史的仮名遣ひ)を用ゐる。

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