■小保方晴子さんへの手紙(第九信)

 ベル研はなぜシェーンをクビにすることができたか?
 


 冠省

 本日、小保方さんは理研の調査委員会最終報告に対する不服申し立てをなさいました。

 全20枚に及ぶ長大なる不服申立書を拝読。不服申立書では捏造・改竄と認定された2点についての詳細な反論を展開してゐるほか、調査委員会の調査のやり方に対する批判を次のやうに述べてをられます。

《中間報告書の作成(3月13日)から本報告書の作成(3月31日)まで2週間という短期間であることに加え、申立人に対し1回の聞き取りがあっただけである(なおこの聞き取りとは別に資料の確認の機会が1回あった)。》

《本件調査はあまりにも短期間になされたものであり、なすべき調査を行うことなく、そして、申立人への反論の機会を十分に与えることなくなされたものである・・・》

 小保方さんの主張を簡単にいふと、調査はもつと長期にわたって徹底的に行ふべきであり、申立人への反論の機会を十分に与へるべきだつた、といふことになります。

 確かに御主張は誠にごもつともであり、私も賛同のほかありません。

 それにつけても想起するのは、またあのベル研の論文捏造事件なんですね。

 ベル研の論文捏造事件で、ベル研の調査委員会は半年に及ぶ調査を行ひました。ヤン・ヘンドリック・シェーンから反論も十分すぎるほど聞いてゐる。そして結論からいふと、さうした徹底的な調査を行つた末に、シェーンの解雇に踏み切つた。徹底的な調査を行つたからこそ、シェーンの解雇が可能になつたわけです。

 ベル研の調査委員会は、今回の理研の調査委員会とはすべてまつたく逆のことをやつてゐます。
 
 ベル研事件の調査経過を少し振り返つてみませう。(以下の説明は主として、村松秀著『論文捏造』に依ります)

 シェーンの論文に対する疑惑が噴出してきたため、ベル研は2002年5月、外部科学者4人、部内者1人からなる調査委員会を発足させます。

 ここで、調査委員会は広く研究者たちから告発を呼びかけたのです。調査対象を早々と6件に限定してしまつた理研の調査委員会の姿勢とは何たる違ひでせう。

 告発は一か月で24件にも達したため、余りの多さに調査委員会はここで告発受理をいつたん打ち切り、24件の論文について本格的な調査に入ります。

 シェーンとの面接は計4回。一回の面接は二日間にまたがつて行はれました。

 調査委員会のシェーンに対する聞き取りは詳細、かつ慎重を極めたものでした。調査委員会が細心の注意を払つたのは、シェーンがあとから、あれはミスだつた、悪意はなかつたと言ひ逃れできないやうに、慎重に訊いてゆくことでした。そのために、調査委は事前にデータやグラフの内容について詳細に調べ、シェーンがこのやうに答へたら、このデータを突き付けるといふシミュレーションを行つた上で、聞き取りに臨んだのです。

 このやうに慎重を極めた聞き取りの結果、シェーンは少なくとも4つの事例について、当初の説明を変更せざるをなくなつたのでした。

 最終的に調査委員会はシェーンは意図的に不正行為を行つてゐたと断定し、16の論文に捏造があつたと結論づけた―これがベル研事件の経緯です。

 ベル研は調査委員会の調査結果を公表した当日にシェーンの解雇に踏み切つたわけですが、その背景にはかうした調査委の緻密な調査があつたのですね。シェーンは不正の一部を自分でも認めざるをえなかつた。だから解雇処分に付しても、本人は反撃する余地はないとベル研は読んだ。実際、シェーンは解雇処分をそのまま受け入れてベル研を去つていきました。
 
 ベル研事件とSTAP細胞事件を重ね合はせてみると、理研はベル研とはすべて逆のことばかりやつて、あなたに反撃の余地を与へたことがよく分かります。

 あなたにとつて幸ひなことは、理研幹部のお歴々が先例に学ぶといふ知恵が欠如した人たちだつたことですね。
 
 では、明日のあなたの会見を楽しみにしてをります。

 
 
                             怱々

 平成二十六年四月八日
                             千葉展正 
   

小保方晴子様

                               




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プロフィール

tensei211

Author:tensei211
ちば・てんせい。ジャーナリスト、政治評論家。フェミニズム論、天皇論を中心に執筆活動を展開してゐる。

北海道芦別市生まれ。千葉県在住。

フェミニズム論をまとめた著作として、『男と女の戦争―反フェミニズム入門』(展転社)など。フェミニズム関係の共著に『男女平等バカ』(宝島社)、『夫婦別姓大論破』(羊泉社)などがある。

執筆には、正仮名遣ひ(歴史的仮名遣ひ)を用ゐる。

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