●安倍首相「名ばかり外交」の代償(3) 

 危機管理能力ゼロの安倍官邸
 イスラム国人質殺害事件で何の役にもたたなかつた「日本版NSC」


 フランスでシャルリー・エブド襲撃テロ事件が起きた1月7日、総理官邸の筋向いの内閣府別館にある国家安全保障局には外務省、防衛省、警察庁などの担当者が集まり、情報の収集と分析にあたつた。

 政府の外交・安全保障政策の司令塔といふ触れ込みで一昨年発足した国家安全保障会議(日本版NSC)。国家安全保障局は国家安全保障会議の事務局で、それまで各省庁に分散してゐた外交・安保、危機管理などの情報を一元的に集約・分析するのが仕事だ。

 国家安全保障会議には4大臣会合、9大臣会合、緊急事態大臣会合といふ3種類の大臣会合があり、テロや領海侵犯などの緊急事態には、必要と認める大臣を招集して緊急事態大臣会合を開き、迅速・適切な対処措置を総理に建議する―とまあ、一応さういふ仕組みになつてゐる。

 シャルリー・エブド襲撃テロ事件が発生した際も、国家安全保障局が情報を収集分析して、何らかの情報が官邸首脳部にもたらされたと思はれる。しかし、国家安全保障局がどんな情報を官邸に上げたにせよ、結果的には何の役にもたたなかつた。なぜなら、肝心の安倍首相が、「こんな時期に中東に行けるオレはツイてゐる」と、中東情勢の緊迫化を逆に歓迎してゐたのだから。

 日本版NSCはいつてみれば、日本最高のインテリジェンス機関である。それなのに、今回のイスラム国による日本人人質殺害事件ではさつぱり機能した形跡がない。

 2月5日の参議院予算委員会で、民主党議員が政府に、イスラム国の日本人人質殺害予告があつた1月20日より以前に、国家安全保障会議で中東情勢について議論が行はれたことがあるか、と質問した。

 それに対して、国家安全保障局の内閣審議官が、1月9日に国家安全保障会議が総理官邸で開催された。この会議で、中東情勢についてISIL(イスラム国)が脅威になつてゐるといふ認識のもとに協議が行はれたと答弁した。協議内容について民主党議員が質したが、地域情勢に関する議論の詳細については差し控へさせていただく、と政府側が答弁。民主党議員の再三の追及にも、審議官は同じ答弁を繰り返したため審議はたびたび中断したが、結局、政府側は中東情勢の議論の詳細は差し控へさせていただく、で押し切つてしまつた。

 シャルリー・エブド襲撃テロ事件が起きたのが1月7日。国家安全保障会議が開催された1月9日と言へば、その2日後だ。

 たしかに国家安全保障会議は1月9日に後開催されてゐるが、この会議で協議されたといふイスラム国の脅威なるものが、安倍首相の心中になんの影響も与へなかつらしいことは、翌10日からの連休に、「中東歴訪と通常国会に向けて英気を養ふ」と、箱根のゴルフ場で世耕官房副長官らとゴルフに興じ、母親らと食事をしたりして、山梨の別荘でくつろいでゐたことからもうかがへる。

 安倍首相の中東訪問の予定が決まつたのは、12月14日の衆議院選挙投開票日の直後である。16日に外務省の斎木次官、杉山外務審議官、上村中東局長らが官邸を訪れてゐて、この時1月の中東訪問について安倍首相の了承を得たと思はれる。第三次安倍内閣は12月24日に発足するが、その前から、第三次安倍内閣の最初の外遊として中東歴訪が決まつたといふ報道記事が流れ始める。

 中東訪問を10日後に控へた1月6日、おそらく中東訪問の最終調整だらう、斎木次官、上村中東局長ら外務省幹部が官邸を訪れてゐる。ここに至つて、安倍首相には、総選挙で大勝した余勢をかつて中東に飛び、26億ドルの支援(うち2億ドルが対イスラム国関連)をブチあげる世界の指導者といふイメージが確固たるものになつたはずである。翌日発生したフランスの週刊紙テロ事件を安倍首相が「奇貨」と受けとめたといふのも驚くにあたらない。
 

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プロフィール

tensei211

Author:tensei211
ちば・てんせい。ジャーナリスト、政治評論家。フェミニズム論、天皇論を中心に執筆活動を展開してゐる。

北海道芦別市生まれ。千葉県在住。

フェミニズム論をまとめた著作として、『男と女の戦争―反フェミニズム入門』(展転社)など。フェミニズム関係の共著に『男女平等バカ』(宝島社)、『夫婦別姓大論破』(羊泉社)などがある。

執筆には、正仮名遣ひ(歴史的仮名遣ひ)を用ゐる。

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