●「戦後70年談話」などやめてしまへ(6)

 首脳会談開催のために中国に差し出した小泉謝罪スピーチ



 小泉首相が乱発した「植民地支配と侵略」発言の中でも極め付きは、平成17年(2005年)4月22日、インドネシアで開催されたアジア・アフリカ会議(A・A会議、バンドン会議)50周年記念首脳会議で行ったスピーチだらう。

《我が国は、かつて植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。こうした歴史の事実を謙虚に受けとめ、痛切なる反省と心からのお詫びの気持ちを常に心に刻みつつ、我が国は第二次世界大戦後一貫して、経済大国になっても軍事大国にはならず、いかなる問題も、武力に依らず平和的に解決するとの立場を堅持しています。》

 「日本の植民地支配と侵略」のお詫びを表明する場として小泉首相が選んだのが、驚くべきことにアジア・アフリカ会議首脳会議なのだつた。

 1955年にインドネシアのバンドンで開催されたのがアジア・アフリカ会議で、非白人国による初めての国際会議といはれ、第二次世界大戦後に欧米諸国の植民地支配から独立したアジアとアフリカの諸国を中心に29ヶ国が参集した。29ヶ国の中には日本も含まれてゐた。

 アジア・アフリカ会議から日本が正式に招請された時、占領から独立して3年目のこととて、政府部内では、アメリカからにらまれやしないかといふ心配と、アジア諸国の対日感情を懸念して、参加すべきかどうか意見が分かれた。しかし、日本代表団が会議に参加してみると、すべて杞憂だつたことが分かつた。

 参加国の代表たちは「よくきてくれた」と日本代表団を歓迎し、彼らの口から出たのは、「日本がアジアのために戦つてくれなかつたら、我々はヨーロッパ諸国の植民地のままだつた」といふ日本への感謝の言葉だつた。

 民族自決と反帝国主義、反植民主義を掲げたアジア・アフリカ会議の参加国から、日本はアジア・アフリカ諸国を苦しめた帝国主義国の一員とみなされてゐなかつたことは明白である。だからこそアジア・アフリカ会議に招請されたのだ。

 アジア・アフリカ会議は第一回会議のあと途絶してしまひ、バンドン会議50周年を記念して開催されたのが2005年のアジア・アフリカ会議首脳会議だつた。

 バンドン会議の沿革を少しでも理解してゐれば、この会議で、日本の総理大臣が植民地支配と侵略を謝罪することがどれほど場違ひで愚かなことか分かる。

 アジア・アフリカ会議で唐突に日本侵略謝罪を持ち出した小泉首相の真意はなにか? 日本の侵略をお詫びすればアジアの首脳たちは喜ぶとでも思つたのだらうか?

 小泉首相が謝罪スピーチを聞かせたかつた相手はただ一国。それは中国で、謝罪スピーチの目的は中国向けのアピールだつた。

 インドネシアでは胡錦濤国家主席との日中首脳会談が予定されてゐたが、この頃、中国では日本大使館が破壊されるなど反日暴動が激化してゐて、首脳会談の開催も危ぶまれてゐた。日本側は首脳会談で、小泉首相の靖国参拝を問題化しないことを最後の一線として、中国側と折衝を続けたが、交渉は難航した。

 そこで日本が中国への懐柔策として考へついたのが、アジア・アフリカ会議首脳会議の席で、小泉首相が日本の植民地支配・侵略のお詫びスピーチをしてみせるといふプラン。

 小泉首相が謝罪スピーチを行つたのが4月22日。これを受けて開かれた日中間の交渉は同日深夜にまでもつれこみ、最終的に翌23日に首脳会談を開催することで合意した。

 中国側としても、靖国参拝をテーマにしないのなら首脳会談は中止すると強硬姿勢でいどみたいところだつたが、中国国内の反日暴動が胡錦濤政府批判に転じようとしてゐたこともあつて、形だけでも日本との首脳会談を行つた方が得策と判断。謝罪スピーチまでしてみせた小泉首相の叩頭姿勢をひとまず外交上の戦果として、首脳会談には渋々応じた。

 この時の首脳会談たるや、対中叩頭外交の見本みたいなもので、小泉首相は胡錦濤が宿泊するジャカルタのホテルまでノコノコ出向かされるといふ体たらく。日本大使館や日本企業の施設がおびただしく破壊されたといふのに、損害の補償を求めるどころか、満足な主張さへせず、終始高圧的な胡錦濤に軽くあしらはれて終了。

 小泉首相のインドネシア訪問で、記憶にとどめておいてもらひたいことがふたつある。ひとつは、小泉首相の植民地支配・侵略のお詫びスピーチが、靖国参拝問題と引き換へになされたものであること(侵略を謝罪するかはりに、靖国問題には触れないでもらひたい)。もうひとつは、植民地支配・侵略のお詫びスピーチが中国向けになされたものであること。

 この小泉首相の対中叩頭姿勢を忠実に引き継いだのが第一次安倍内閣である。
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プロフィール

tensei211

Author:tensei211
ちば・てんせい。ジャーナリスト、政治評論家。フェミニズム論、天皇論を中心に執筆活動を展開してゐる。

北海道芦別市生まれ。千葉県在住。

フェミニズム論をまとめた著作として、『男と女の戦争―反フェミニズム入門』(展転社)など。フェミニズム関係の共著に『男女平等バカ』(宝島社)、『夫婦別姓大論破』(羊泉社)などがある。

執筆には、正仮名遣ひ(歴史的仮名遣ひ)を用ゐる。

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