●「戦後70年談話」などやめてしまへ(8)

 過去の罪科をうやむやにしたい安倍首相が思ひついた猿知恵



 「あのさ、やつぱりさ、あの時、日本の植民地支配と侵略を認めたのはまづかつたよね」

 
 総理官邸の主の性格を特徴づけるのは、思慮分別のなさとこの軽さだ。戦後70年談話問題もきつとこんな調子で、側近に語られたに違ひない。あの時とは、もちろん第一次安倍政権の時、国会でやらかした「植民地支配と侵略」発言のこと。

 「戦後70年談話」に関して安倍首相は、「歴史認識については村山談話、小泉談話をはじめ歴代内閣の見解を引き継いでゆく」と繰り返し述べてゐる。

 村山談話を憎悪してやまない愚民保守たちは、安倍首相のこんな発言が我慢ならないらしい。

 でも、安倍首相としては、これしか言ひ様がないんだよね。なぜなら、自分も前に総理大臣だつた時、「我が国は、かつて植民地支配と侵略によつて、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与へた」と明言してしまつたのだから。

 安倍首相が「歴代内閣の見解を全体として引き継いでゆく」といふ時の「歴代内閣」の中には、第一次安倍内閣も含まざるをえない。だから彼としては「歴代内閣の見解を引き継いでゆく」としかいいやうがないのだ。自分も総理大臣として「植民地支配と侵略」発言の前歴がある以上、今さら村山談話だけを特例扱ひするわけにもいかない。

 日中首脳会談を成功させたいばつかりに、「植民地支配と侵略」発言までサービスして中国に媚びを売つたのに、第一次政権はまたたく間に崩壊してしまひ、第二次政権以降も中国は事あるごとに歴史認識問題を持ち出してくる。安倍首相の心中を察すれば、「あの時、日本の植民地支配と侵略を認めたのはまづかつたよね」といふのが正直なところだらう。

 しかし、一国の総理大臣が今さら「あの植民地支配と侵略発言は間違つてました。取消します」なんていへるわけもない。

 植民地支配と侵略発言をやらかした自分の過去の罪科を帳消しにする方法はないものだらうか? ある。戦後70年談話から「植民地支配と侵略」といふ表現をオミットすること。でも自分の一存でそれをやれば、「お前もかつて総理大臣としして侵略を認めたではないか」といはれてしまふ。

 そこで、安倍さんが考へついたのが、第三者機関にゲタを預けるといふアイデア。その上で、「未来志向」とかなんとか理屈をつけて、「植民地支配と侵略」を省略する。文句をいはれたら、「談話は有識者会議の検討をふまへたものでありまして」と逃げればいい。

 自分の過去の罪科をうやむやにしつつ、自分に責任が及ばないやうにする。これぞ安倍流猿知恵作戦。グッドアイデアといひたいところだが、この猿知恵がやがて「戦後70年談話」騒動を招くことにならうとは。
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プロフィール

tensei211

Author:tensei211
ちば・てんせい。ジャーナリスト、政治評論家。フェミニズム論、天皇論を中心に執筆活動を展開してゐる。

北海道芦別市生まれ。千葉県在住。

フェミニズム論をまとめた著作として、『男と女の戦争―反フェミニズム入門』(展転社)など。フェミニズム関係の共著に『男女平等バカ』(宝島社)、『夫婦別姓大論破』(羊泉社)などがある。

執筆には、正仮名遣ひ(歴史的仮名遣ひ)を用ゐる。

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