●安倍談話の「侵略」明記はナベツネの圧力か?(承前)
「侵略」4点セットに慰安婦謝罪までおまけした理由(わけ)
 女性支持ほしさの世論迎合が安倍談話の本質


 安倍談話の「侵略」「植民地支配」「お詫び」「反省」の4点セット明記は読売ナベツネの圧力でした、なんて単純な話でないことは、安倍官邸が4点セットの地ならしを行つてゐたことからも判然とする。地ならしそのお先棒をかついだのが、たとへばNHKである。

 NHKは8月11日のニュースで、戦後70年談話に関する次のやうなNHK世論調査結果を放送した。

《 談話 おわび「盛り込んだほうがよい」42%

NHKの世論調査で、安倍総理大臣が戦後70年のことし発表する談話に「過去の植民地支配と侵略に対するおわび」を盛り込んだほうがよいと思うか尋ねたところ、「盛り込んだほうがよい」が42%、「盛り込まないほうがよい」が15%でした。

NHKは今月7日から3日間、全国の20歳以上の男女を対象に、コンピューターで無作為に発生させた番号に電話をかける「RDD」という方法で世論調査を行い、調査対象の65%に当たる1057人から回答を得ました。
この中で、安倍総理大臣が戦後70年のことし発表する予定の談話の中に「過去の植民地支配と侵略に対するおわび」を盛り込んだほうがよいと思うか尋ねたところ、「盛り込んだほうがよい」が42%、「盛り込まないほうがよい」が15%、「どちらともいえない」が34%でした。》

 そのものズバリ、談話に「過去の植民地支配と侵略に対するおわび」を盛り込んだはうがよいか、盛り込まないはうがよいかと聞いた世論調査なのだ。

 結果は、「盛り込んだほうがよい」が42%で、「盛り込まないほうがよい」の15%を圧倒した。今の日本で、過去の戦争絡みの、この手の世論調査をやれば回答結果はまづこんなものだらう。

 回答結果はやる前から見えてゐる世論調査をNHKが8月11日といふタイミングで発表したのはなぜか?

 周知のやうに今のNHKは安倍官邸に至極従順な国営放送である。安倍談話に関するこの世論調査をNHKが安倍官邸の意に反して実施したと考へる馬鹿はゐないだらう。この時期、安倍官邸が一番出してほしい世論調査結果を、安倍官邸の意をくんでNHKがプレゼントした。さう考へるのが自然といふものだ。

 「侵略4点セットを盛り込むのは世論の声でもあります」―早々と4点セットを談話に盛り込むことを決めてゐた安倍官邸が、次に切望したのが「世論の声」だ。その土壌づくりに安倍御用放送局が協力したとしても不思議ではない。

 21世紀構想懇談会の北岡伸一座長代理は、安倍談話は「期待以上に踏み込んだものだつた」と手放しの喜びやうだが、慰安婦問題への言及もかれらにとつて「期待以上」だつたに違ひない。

 安倍談話は言ふ。

《戦場の陰には、深く名誉と尊厳を傷つけられた女性たちがいたことも、忘れてはなりません。》

《私たちは、二十世紀において、戦時下、多くの女性たちの尊厳や名誉が深く傷つけられた過去を、この胸に刻み続けます。だからこそ、我が国は、そうした女性たちの心に、常に寄り添う国でありたい。二十一世紀こそ、女性の人権が傷つけられることのない世紀とするため、世界をリードしてまいります。》

 慰安婦らに対する日本政府としての明白な謝罪である。しかも、パラフレーズする形で、二度にわたつて言及するといふ念の入れやうだ。

 慰安婦問題つに関する謝罪は村山談話や小泉談話にもなかつたものだ。村山談話と小泉談話には慰安婦問題への言及すらなかつた。安倍談話のヨイショ作業に早速取りかかつた御用言論人たちは、もちろん安倍談話にある慰安婦問題謝罪など無視を決め込んでゐる。

 安倍首相といふ人は、女性、女性と連呼すれば女性の支持率が増へると思つてゐる。彼のフェミズム路線の根底にあるのは対女性ポピュリズムである。引用した安倍談話の文章をもう一度読んでごらんなさい。「女性」といふ言葉が実に4回も連呼されるのだ。
 
 過去に「河野談話」を「追及」した人物が河野談話の上塗りをする。談話の上書きではない、上塗り。恥の上塗りといふやつだ。
恥を知れといいたいところだが、そもそもこの人物には恥といふ感情がもともと稀薄な上に、最近は病気で使用してゐる薬剤の副作用で極端な情緒不安定症状に陥つてゐるらしいから、何を言つても無駄である。

 やがて安倍政権が倒れたら、そのあとには恥の上塗り談話だけが疫病神の標柱のやうに残されるのであらう。

  **************

 参考までに安倍談話の全文を下に掲げておく。下線部が慰安婦問題への言及である。下線部がなくても、侵略など4点セットだけで謝罪談話としての構成要件は十分満たしてゐるが、下線部があることによつて、謝罪談話に「精彩」を加へ、謝罪談話としての「完璧性」が増したことが読みとれると思ふ。




平成27年8月14日 内閣総理大臣談話

 終戦七十年を迎えるにあたり、先の大戦への道のり、戦後の歩み、二十世紀という時代を、私たちは、心静かに振り返り、その歴史の教訓の中から、未来への知恵を学ばなければならないと考えます。

 百年以上前の世界には、西洋諸国を中心とした国々の広大な植民地が、広がっていました。圧倒的な技術優位を背景に、植民地支配の波は、十九世紀、アジアにも押し寄せました。その危機感が、日本にとって、近代化の原動力となったことは、間違いありません。アジアで最初に立憲政治を打ち立て、独立を守り抜きました。日露戦争は、植民地支配のもとにあった、多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけました。

 世界を巻き込んだ第一次世界大戦を経て、民族自決の動きが広がり、それまでの植民地化にブレーキがかかりました。この戦争は、一千万人もの戦死者を出す、悲惨な戦争でありました。人々は「平和」を強く願い、国際連盟を創設し、不戦条約を生み出しました。戦争自体を違法化する、新たな国際社会の潮流が生まれました。

 当初は、日本も足並みを揃えました。しかし、世界恐慌が発生し、欧米諸国が、植民地経済を巻き込んだ、経済のブロック化を進めると、日本経済は大きな打撃を受けました。その中で日本は、孤立感を深め、外交的、経済的な行き詰まりを、力の行使によって解決しようと試みました。国内の政治システムは、その歯止めたりえなかった。こうして、日本は、世界の大勢を見失っていきました。

 満州事変、そして国際連盟からの脱退。日本は、次第に、国際社会が壮絶な犠牲の上に築こうとした「新しい国際秩序」への「挑戦者」となっていった。進むべき針路を誤り、戦争への道を進んで行きました。

 そして七十年前。日本は、敗戦しました。

 戦後七十年にあたり、国内外に斃れたすべての人々の命の前に、深く頭を垂れ、痛惜の念を表すとともに、永劫の、哀悼の誠を捧げます。

 先の大戦では、三百万余の同胞の命が失われました。祖国の行く末を案じ、家族の幸せを願いながら、戦陣に散った方々。終戦後、酷寒の、あるいは灼熱の、遠い異郷の地にあって、飢えや病に苦しみ、亡くなられた方々。広島や長崎での原爆投下、東京をはじめ各都市での爆撃、沖縄における地上戦などによって、たくさんの市井の人々が、無残にも犠牲となりました。

 戦火を交えた国々でも、将来ある若者たちの命が、数知れず失われました。中国、東南アジア、太平洋の島々など、戦場となった地域では、戦闘のみならず、食糧難などにより、多くの無辜の民が苦しみ、犠牲となりました。戦場の陰には、深く名誉と尊厳を傷つけられた女性たちがいたことも、忘れてはなりません。

 何の罪もない人々に、計り知れない損害と苦痛を、我が国が与えた事実。歴史とは実に取り返しのつかない、苛烈なものです。一人ひとりに、それぞれの人生があり、夢があり、愛する家族があった。この当然の事実をかみしめる時、今なお、言葉を失い、ただただ、断腸の念を禁じ得ません。

 これほどまでの尊い犠牲の上に、現在の平和がある。これが、戦後日本の原点であります。

 二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない。

 事変、侵略、戦争。いかなる武力の威嚇や行使も、国際紛争を解決する手段としては、もう二度と用いてはならない。植民地支配から永遠に訣別し、すべての民族の自決の権利が尊重される世界にしなければならない。

 先の大戦への深い悔悟の念と共に、我が国は、そう誓いました。自由で民主的な国を創り上げ、法の支配を重んじ、ひたすら不戦の誓いを堅持してまいりました。七十年間に及ぶ平和国家としての歩みに、私たちは、静かな誇りを抱きながら、この不動の方針を、これからも貫いてまいります。

 我が国は、先の大戦における行いについて、繰り返し、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明してきました。その思いを実際の行動で示すため、インドネシア、フィリピンはじめ東南アジアの国々、台湾、韓国、中国など、隣人であるアジアの人々が歩んできた苦難の歴史を胸に刻み、戦後一貫して、その平和と繁栄のために力を尽くしてきました。

 こうした歴代内閣の立場は、今後も、揺るぎないものであります。

 ただ、私たちがいかなる努力を尽くそうとも、家族を失った方々の悲しみ、戦禍によって塗炭の苦しみを味わった人々の辛い記憶は、これからも、決して癒えることはないでしょう。

 ですから、私たちは、心に留めなければなりません。

 戦後、六百万人を超える引揚者が、アジア太平洋の各地から無事帰還でき、日本再建の原動力となった事実を。中国に置き去りにされた三千人近い日本人の子どもたちが、無事成長し、再び祖国の土を踏むことができた事実を。米国や英国、オランダ、豪州などの元捕虜の皆さんが、長年にわたり、日本を訪れ、互いの戦死者のために慰霊を続けてくれている事実を。

 戦争の苦痛を嘗め尽くした中国人の皆さんや、日本軍によって耐え難い苦痛を受けた元捕虜の皆さんが、それほど寛容であるためには、どれほどの心の葛藤があり、いかほどの努力が必要であったか。

 そのことに、私たちは、思いを致さなければなりません。

 寛容の心によって、日本は、戦後、国際社会に復帰することができました。戦後七十年のこの機にあたり、我が国は、和解のために力を尽くしてくださった、すべての国々、すべての方々に、心からの感謝の気持ちを表したいと思います。

 日本では、戦後生まれの世代が、今や、人口の八割を超えています。あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません。しかし、それでもなお、私たち日本人は、世代を超えて、過去の歴史に真正面から向き合わなければなりません。謙虚な気持ちで、過去を受け継ぎ、未来へと引き渡す責任があります。

 私たちの親、そのまた親の世代が、戦後の焼け野原、貧しさのどん底の中で、命をつなぐことができた。そして、現在の私たちの世代、さらに次の世代へと、未来をつないでいくことができる。それは、先人たちのたゆまぬ努力と共に、敵として熾烈に戦った、米国、豪州、欧州諸国をはじめ、本当にたくさんの国々から、恩讐を越えて、善意と支援の手が差しのべられたおかげであります。

 そのことを、私たちは、未来へと語り継いでいかなければならない。歴史の教訓を深く胸に刻み、より良い未来を切り拓いていく、アジア、そして世界の平和と繁栄に力を尽くす。その大きな責任があります。

 私たちは、自らの行き詰まりを力によって打開しようとした過去を、この胸に刻み続けます。だからこそ、我が国は、いかなる紛争も、法の支配を尊重し、力の行使ではなく、平和的・外交的に解決すべきである。この原則を、これからも堅く守り、世界の国々にも働きかけてまいります。唯一の戦争被爆国として、核兵器の不拡散と究極の廃絶を目指し、国際社会でその責任を果たしてまいります。

 私たちは、二十世紀において、戦時下、多くの女性たちの尊厳や名誉が深く傷つけられた過去を、この胸に刻み続けます。だからこそ、我が国は、そうした女性たちの心に、常に寄り添う国でありたい。二十一世紀こそ、女性の人権が傷つけられることのない世紀とするため、世界をリードしてまいります。

 私たちは、経済のブロック化が紛争の芽を育てた過去を、この胸に刻み続けます。だからこそ、我が国は、いかなる国の恣意にも左右されない、自由で、公正で、開かれた国際経済システムを発展させ、途上国支援を強化し、世界の更なる繁栄を牽引してまいります。繁栄こそ、平和の礎です。暴力の温床ともなる貧困に立ち向かい、世界のあらゆる人々に、医療と教育、自立の機会を提供するため、一層、力を尽くしてまいります。

 私たちは、国際秩序への挑戦者となってしまった過去を、この胸に刻み続けます。だからこそ、我が国は、自由、民主主義、人権といった基本的価値を揺るぎないものとして堅持し、その価値を共有する国々と手を携えて、「積極的平和主義」の旗を高く掲げ、世界の平和と繁栄にこれまで以上に貢献してまいります。

 終戦八十年、九十年、さらには百年に向けて、そのような日本を、国民の皆様と共に創り上げていく。その決意であります。

平成二十七年八月十四日
                 内閣総理大臣  安倍 晋三








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プロフィール

tensei211

Author:tensei211
ちば・てんせい。ジャーナリスト、政治評論家。フェミニズム論、天皇論を中心に執筆活動を展開してゐる。

北海道芦別市生まれ。千葉県在住。

フェミニズム論をまとめた著作として、『男と女の戦争―反フェミニズム入門』(展転社)など。フェミニズム関係の共著に『男女平等バカ』(宝島社)、『夫婦別姓大論破』(羊泉社)などがある。

執筆には、正仮名遣ひ(歴史的仮名遣ひ)を用ゐる。

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