■夫婦別姓のカラクリ(7)

   「女性の再婚禁止期間」違憲判決のボロ隠しに利用された「夫婦別姓」合憲判決
 



 最高裁が、一方で「夫婦同姓」を合憲とし、他方で「女性の再婚禁止期間」を違憲とする判決をわざわざ同じ日に設定したことに私は露骨な意図を感じる。

 同じ民法の規定に関する裁判ではあるけれども、夫婦の姓をどうするかといふ家族の歴史と伝統が絡んだ規定と、懐胎といふ医学的問題も絡む再婚禁止期間の規定とは、規定の根拠も性格もまつたく異質な問題なのだから、個別に判決を出せばすむことである。

 ふたつの訴訟に共通するのは、フェミニズム勢力が長年にわたつて要求してきたテーマといふ一点しかない。

 民法改正案まで作成してフェミニズム勢力の先導役をつとめてきたのが法務省であつてみれば、最高裁としても「夫婦同姓」「女性の再婚禁止期間」ともに違憲判決を出したいのはやまやまだつた(最高裁と法務省は一体の関係にある)。

 しかし、最高裁がどうあがいても夫婦同姓規定に違憲判断を下すことは不可能だ(その理由はあとで説明する)。そこで考へだされたのが、双方の判決をセットにするといふ手法だつた。

 最高裁にとつて、ふたつの判決をセットにするメリットはいろいろある。

 まづ 、「夫婦同姓」合憲判決と抱き合はせにすることで、「女性の再婚禁止期間」違憲判決のボロを隠すことができる。

 逆に、「女性の再婚禁止期間」の違憲判決と抱き合はせにすることで、「夫婦同姓」合憲判決のインパクトを弱めることができる。

 それから、同じ新聞の紙面に「違憲判決」と「合憲判決」の見出しが同時に踊れば、国民の目にはフェミニストたちが騒いできた問題で最高裁が一見中立性を保つたやうにみえるといふ効果。
 
 さらに、夫婦同姓で合憲判決を出さざるをえなかつた最高裁の、ただでは夫婦同姓合憲判決を出してやらないといふ自民党へのウップン晴らしの意味もある。

 一番大きいのは、夫婦別姓で合憲判決を出してやつたのだから、再婚禁止期間の違憲判決くらゐ認めろといふ自民党へ示威行為としての意味だ。

 事実、法務省は再婚禁止期間規定の違憲判決を見越して、早くから婚姻届けに関する自治体への通達の準備を進めてゐた。法務省は当然、自民党への根回しも済ませてゐたであらう。判決の同じ12月16日付けで、離婚後100日を超える婚姻届けを受理するよう自治体に通達を出すといふ電光石火の早わざはそのへんの事情を物語つてゐる。

 最高裁はいつの世も「違憲」判決を出したくてうずうずしてゐる組織である。ある法令に最高裁が違憲判決を出しても、違憲判決に従つて法律が改正されなければ、違憲判決を出した意味がないどころか、最高裁の権威は失墜する。今回の違憲判決では、自民党が次の国会で民法条文改正の方向にスンナリ動いた。まさしく夫婦同姓合憲との抱き合せ判決の如実な効果といへる。

 考へてみると、100日を超える女性の再婚禁止期間は「違憲」といふのも妙な判決である。

 女性再婚禁止期間の現行規定6か月は約180日である。100日を超える期間が違憲なら、約80日の部分が違憲といふことになる。たつた80日のことで、違憲といふ御大層な判決を出したところに、最高裁の「違憲」至上主義的性格がよく表れてゐる。

 最高裁が、女性再婚禁止期間を100日とした根拠は、民法772条2項の「婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は婚姻中に懐胎したものと推定する」といふ規定である。この規定があることによつて、「計算上100日の再婚禁止期間を設けることによって、父性の推定の重複が回避されることになる」と最高裁判決はいふ。

 しかし、そんなことは再婚禁止期間を6カ月と決めた旧民法の制定者たちも当然承知していてゐたことで、原審の広島高裁岡山支部の原判決では次のやうに述べて原告の請求を退けてゐる。

 「本件規定の立法目的は父性の推定の重複を回避し、父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにあると解されるところ、その立法目的には合理性があり、これを達成するために再婚禁止期間を具体的にどの程度の期間とするかは、上記立法目的と女性の婚姻の自由との調整を図りつつ国会において決定されるべき問題であるから、これを6箇月とした本件規定が直ちに過剰な制約であるとはいえず」と。

 そして、最高裁自身も判決の中で次のやうに、再婚禁止期間に一定の期間の幅を設けることが、「父子関係をめぐる紛争を未然に防止することにつながるという考え方」が不合理であつたとは言ひ難いと認めてゐるのだ。

 「旧民法767条1項において再婚禁止期間が6箇月と定められたことの根拠について、旧民法起草時の立案担当者の説明等からすると、その当時は,専門家でも懐胎後6箇月程度経たないと懐胎の有無を確定することが困難であり、父子関係を確定するための医療や科学技術も未発達であった状況の下において、再婚後に前夫の子が生まれる可能性をできるだけ少なくして家庭の不和を避けるという観点や、再婚後に生まれる子の父子関係が争われる事態を減らすことによって、父性の判定を誤り血統に混乱が生ずることを避けるという観点から、再婚禁止期間を厳密に父性の推定が重複することを回避するための期間に限定せず、一定の期間の幅を設けようとしたものであったことがうかがわれる。また、諸外国の法律において10箇月の再婚禁止期間を定める例がみられたという事情も影響している可能性がある。上記のような旧民法起草時における諸事情に鑑みると,再婚禁止期間を厳密に父性の推定が重複することを回避するための期間に限定せず、一定の期間の幅を設けることが父子関係をめぐる紛争を未然に防止することにつながるという考え方にも理解し得る面があり、このような考え方に基づき再婚禁止期間を6箇月と定めたことが不合理であったとはいい難い。このことは、再婚禁止期間の規定が旧民法から現行の民法に引き継がれた後においても同様であり、その当時においては、国会に認められる合理的な立法裁量の範囲を超えるものであったとまでいうことはできない。」

 それなら、違憲でなかつた80日の部分が突如違憲になつたのはいつからなのか?

                 (この項続く)





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プロフィール

tensei211

Author:tensei211
ちば・てんせい。ジャーナリスト、政治評論家。フェミニズム論、天皇論を中心に執筆活動を展開してゐる。

北海道芦別市生まれ。千葉県在住。

フェミニズム論をまとめた著作として、『男と女の戦争―反フェミニズム入門』(展転社)など。フェミニズム関係の共著に『男女平等バカ』(宝島社)、『夫婦別姓大論破』(羊泉社)などがある。

執筆には、正仮名遣ひ(歴史的仮名遣ひ)を用ゐる。

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