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■ 山口智美・ 斉藤正美・荻上チキ著『社会運動の戸惑い』(勁草書房)書評

 「バックラッシャー」を通じて問ひ直すフェミニズム


 『社会運動の戸惑い』(勁草書房)といふタイトルの、ちよつと風変はりな本が出版されたので紹介したいと思ひます。著者は山口智美、 斉藤正美、 荻上チキの三人。『社会運動の戸惑い』といふ書名だけみると一体なにをテーマにした本なのだらうと思つてしまひますが、《フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動》といふ副題の方が本書の内容を直接に表現してゐるやうです。フェミニズムの研究家であり、実践家でもあり、つまりフェミストである著者たちは、ジェンダーフリーの嵐が吹き荒れフェミニズム運動が盛り上がりをみせた時期に各地で起きた反フェミニズム運動、いはゆるバックラッシュ運動に焦点をあて、それらの運動が、いつ、だれによつて、何を契機にして生起したのかを、当事者双方への聞き書きから明らかにしようとするのです。

 本書でとりあげられたバックラッシュ運動とは、宇部市の男女共同参画推進条例問題、千葉県の男女共同参画条例問題、「性的指向」をめぐる宮崎県都城市の条例制定問題、福井県の生活学習館「ユー・アイふくい」のフェミニズム図書撤去問題など。

 実は不肖千葉展正も、本書に登場(第3章 千葉県に男女共同参画条例がない理由)するので、今書いてゐるこの文章もまあ不肖の宣伝と思つてお読みいただきたい。著者らとは、『男女平等バカ』(宝島社)で一緒に仕事をした野村旗守氏の紹介でお会ひし、地元の喫茶店でかなり長いインタビューを受けました。一昨年のことです。千葉県における条例推進側だつた堂本元知事や大沢真理女史らへの取材は既に終へてゐるとの事でした。

 千葉県の条例問題といふのは、堂本知事が日本一の男女共同参画条例をつくるんだと豪語して、本当に日本一過激な男女共同参画条例案をつくつてしまひ、やがて条例反対運動が起きて、堂本知事案は棚上げになつたものの、今度は反対運動を展開してゐた保守が分裂、一方の保守が自民党を抱き込んで「良識的」な男女共同参画条例案をつくるも、この自民党条例案も最後は廃案になるといふ摩訶不思議な展開をたどりました。
 
 不肖は対堂本案のバックラッシャーのみならず、自民党案のバックラッシャーとしての栄誉まで担つてしまひ、そのへんのことは『男と女の戦争』(展転社)にも書いたのですが、訪ねてきたお二人(山口さんと斉藤さん)の関心も当然保守分裂の背景にあつたやうです。不肖は本来社会運動家でもなんでもないのですが、地元の千葉県でみすみす日本一の男女共同参画条例をつくらせるわけにはいかないので、この時ばかりは猛烈に動きました。自民党の有力県議たちに片つ端から会ひに行き、自民党政調会長に面談するために房総半島の先端まで車を飛ばしたなんてこともありました。メルマガ、ブログ、雑誌、ミニコミ、チラシ、ファクスとあらゆる媒体をつかつて条例案に批判を加へ、後半はその矛先が自民党案に向かつたといふ次第です。

 さて、『社会運動の戸惑い』に戻ると、本書にはバックラッシュ派への聞き書き以外にも、例へば、ジェンダーフリーといふ由来不明の用語がどれほど事態の混乱を招いたかを分析した第1章や、国立女性会館(ヌエック)を箱モノ行政として分析した第6章、フェミニズムとインターネットなどの関係を分析した第7章など、精緻克明なレポートが並んでゐます。これらを読めば、著者たちが、現下の政府主導による男女共同参画行政に根本的な違和感を抱いてゐることが分かると思ひます。さう。この本はフェミニストのひとたちがバックラッシュ運動を通じて、フェミニズム運動の問題をあぶり出さうとした試みだつたのです。

 『社会運動の戸惑い』はそもそもフィールドワークに立脚した学術書なのですが、著者らが「バックラッシャー」にファクス一本送るにも緊張してみたり、あるひはまた訪問先で「バックラッシャー」の仲間とバーベキューで盛りあがつたりと、異文化ならぬ異イデオロギー邂逅の物語として読んでも面白いかもしれません。その意味で「ちよつと風変はりな本」なのです。
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プロフィール

tensei211

Author:tensei211
ちば・てんせい。ジャーナリスト、政治評論家。フェミニズム論、天皇論を中心に執筆活動を展開してゐる。

北海道芦別市生まれ。千葉県在住。

フェミニズム論をまとめた著作として、『男と女の戦争―反フェミニズム入門』(展転社)など。フェミニズム関係の共著に『男女平等バカ』(宝島社)、『夫婦別姓大論破』(羊泉社)などがある。

執筆には、正仮名遣ひ(歴史的仮名遣ひ)を用ゐる。

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