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園部逸夫著『皇室法概論』―法曹左翼から皇室法専門家へのロンダリング

■『皇室法概論』といふ羊頭狗肉的詐称

633ページ。分厚い本である。現在、元最高裁判事、現内閣官房参与といふ肩書を持つ園部逸夫氏が平成14年4月に刊行した本である。

『皇室法概論』を初めて読んだ時の私の感想は、「こんな嘘ばかり平気で書き連ねる人間に、よく最高裁判事がつとまつたな」といふものだつた。

書名からしてウソくさい。「皇室法」概論を名乗りながら、皇室関係の一方の重要法制たる「皇室経済法」を割愛してあるし、天皇制度と不可分の関係にある「元号法」など、その名前さへ出てこない。元号制定は歴史上、天皇大権であつたから、天皇大権を法制化した元号法の重要性は言ふを俟たず、元号法を抜きにした「皇室法」の専門書などありえない。

本書のテーマは皇位継承以外のなにものでもない。633ページの半分以上は皇位継承制度問題に割かれ、「総論」における「世襲」や「天皇皇族の基本的人権」などの各章も皇位継承制度を論ずるための伏線みたいなものだ。

皇位継承問題について、著者はこんなことを言つてゐる。

《皇位継承制度についてあくまでも法制度上の問題に議論を限り、その範囲で従来の議論や研究を基に現行制度の概説を行うこととした。》
(313頁)

「現行制度の概説」! 思はず笑つてしまふ。「女系天皇擁立論の概説」といふなら分かる。中身は女系天皇擁立論そのものなのだから。

数多出版されてゐる女系天皇礼賛のデマゴギー本と理論レベルにおいてなんら代はらない本書が、ことさら『皇室法概論』といふ羊頭狗肉的詐称によつて出版されたのはなぜか?

■「法曹左翼」から「皇室法専門家」へのロンダリング

本書が出版されたのは平成14年。

平成11年に最高裁判事を定年退官した園部は、平成11年から12年にかけて開催された政府の皇室典範改悪に向けた秘密研究会(第二期)に参加する。その後、平成15年から16年にかけて、内閣法制局、宮内庁を中心にした政府の非公式会議が持たれ、そこで事実上、女系天皇推進方針が決定され、平成16年12月、「有識者会議」が発足、といふ流れになつてゆく。

このプロセスの中で、女系天皇推進勢力が是非とも必要なものがあつた。それは、「皇室法専門家」といふ肩書きを持つた人間である。そのめに、『皇室法概論』の出版が計画され、「皇室法専門家」園部逸夫がデッチあげられた・・・・と私はみてゐる。

際、有識者会議が発足してみると、メンバーは皇室問題の素人ばかりといふ批判は噴出したものの、「皇室問題の専門家といへるのは園部氏くらゐなもので」といふ前置きがつくのが常だつた。ロボット工学の吉川弘之だとか他のメンバーの畑違ひぶりが強調されればされるほど、園部逸夫の「皇室法専門家」ぶりが際立つといふ仕組みだつた。「法曹左翼」園部逸夫を「皇室法専門家」に変身させるロンダリング作戦はまんまと成功したのである。

■国会答弁引用の小細工

さてそれでは、本書の中のおびただしい嘘の中から、極めつけの嘘を摘出してみよう。

《皇位継承制度における正当性とは何かという制度の根本的価値の問題まで論点を広げることが必要なのではないかといった考え方もあり得ると思われる。/ただ、そうなると皇位継承制度に関する論点は法律のみならず、歴史、政治、文化、思想等々極めて幅広い分野に及ぶこととなり、皇位継承制度を論ずるためにはそうした幅広い分野にわたる学問的成果を基に、更に深い思索を重ねることが必要になると言わざるを得ず、これは法的側面から皇室制度の解説を試みる本書の範囲を超えることになろう。》

「皇位継承制度における正当性とは何か」といふ問題には踏み込まないと殊勝にも述べてゐる。しかし、別の箇所ではこんなことを平気で書いてゐる。

《皇位継承資格を男系に限ることに関して、従来政府は男系に限ることが正当であることの根拠を「歴史・伝統」及び「国民の意識」に求めて説明を行い、国会では、その根拠の内容及び解釈を巡って議論がなされてきた。しかしそういった議論は、あくまでも男系制度を採ることが何故に正当であるかという根拠についての議論であって、皇位という地位が何故に男系により継承されなければならないかという理由についての議論ではなかったと言えよう。》(379頁)

なにやら意味不明の文章だが、要するに「男系継承の理由がオレにはよく理解できない」と言ひたいらしいのだ。

そして、次のやうにのたまふ。

《ただ、女性天皇制度を巡る議論が、この皇位継承資格を男系に限る理由が明らかにならないままで今後もなされるとすれば、それは女性天皇制度の是非を判断するに当たって考えるべき基準の一つが必ずしも明確ではないままの議論というということにならざるを得ないと言えよう。》

ほらごらん。本音がもうあらはれた。皇位継承資格を男系に限る理由が明らかではない、と。

男系男子に限る現行皇位継承制度には正当性がないと喝破した著者は、さらに一歩進めて、男系継承制度の未来に警鐘を鳴らす。

《このように政府は、歴史上の事実のうち例外のないものを皇位継承の伝統として尊重し、そうした伝統の内容が国民の皇位及び象徴の地位に対する意識に沿っているものであると説明しているが、問題は、言わば過去の国民が正統と認めてきた皇位継承の伝統と、今後の国民の皇位継承制度に対する意識との間に乖離が生じたときであろう。》

国民の意識が乖離すれば、男系継承制度は危ふくなる! 

かやうな自説を展開した上で、政府も国民の意識が変われば制度の変更もあり得ると言つてゐるではないかと、次のやうな国会における内閣法制局の答弁を引用する。(昭和41年3月18日、衆議院内閣委員会)

《関道夫・内閣法制局第一部長・・・・そこで、絶対的に女子が天皇に立たれることを憲法が禁じているわけでもありませんので、国民感情の推移によりましては、先生の仰せられるようなこと(女性も皇位資格を持つこと)も不可能なことだというふうには私は考えておりませんが・・・》

なるほど。

これだけ読むと、この役人は国民意識変化による女性天皇誕生に肯定的と言えなくもない。

では、この国会質疑の全文を見てみたい。

《受田委員 したがって、たとえば男系の男子だけが皇位を継承されるという問題も、皇太子のお子さまが男子の方が相次いでお産まれになったからほっとしたような形ですけれども、女性が産まれようと男性が産まれようと、やはり民主主義で男女平等の原則が憲法に保障されている限りは、英国式に女性の方も皇位継承権は持つようなそういう典範にしないと、これは男系尊重主義の皇室典範です。これも一つ問題がある。これはいかがでしょう。

○関政府委員 仰せのごとく、必ず男系でなければならないということを、前の憲法と違いまして、いまの憲法はいっておるわけではございません。そこで、いま男系主義をとっておりますそういう制度そのものを理解するのにどう理解するかということで私なりの理解を申し上げますと、天皇が憲法第一条に基づきまして日本国の象徴であり、日本国民統合の象徴であるということになっております。その背景といたしまして、それはやはり国民の総意による、国民の象徴の問題でございますから、国民感情というものを無視できない。そこで、それが受田先生の仰せられるような観点から、いろいろまた別の考え方がないということを申し上げておるのではありませんが、いまのたてまえは、おそらく従来女帝が立たれた場合がないわけではないけれども、それは非常に異例に属する。そこで日本の国民感情として、天皇は男子の方が立たれるということが象徴ということの感情的な一つの背景、歴史的なと申しますか、一つの歴史によってつちかわれた感情が背景をなしておる、そういう考え方に立っておるのではないかというふうに考えます。そこで、絶対的に女子が天皇に立たれることを憲法が禁じているわけでもありませんので、国民感情の推移によりましては、先生の仰せられるようなことも不可能なことだというふうに私は考えてはおりませんが、いまの制度はそういうたてまえに立っておるのではないか、こういうふうに考えておるのでございます。》

答弁の最後をよく読んでいただきたい。《先生の仰せられるようなことも不可能なことだというふうに私は考えてはおりませんが》に続けて、《いまの制度はそういうたてまえに立っておるのではないか、こういうふうに考えておるのでございます。》とある。

《いまの制度はそういうたてまえ》とは何かといふ説明は、その前にある。

《いまのたてまえは、おそらく従来女帝が立たれた場合がないわけではないけれども、それは非常に異例に属する。そこで日本の国民感情として、天皇は男子の方が立たれるということが象徴ということの感情的な一つの背景、歴史的なと申しますか、一つの歴史によってつちかわれた感情が背景をなしておる、そういう考え方に立っておるのではないかというふうに考えます。》

つまり、この役人は、女帝は異例に属する、男系男子継承は歴史的な国民感情に根ざしてゐる、と説明してゐるにすぎないことが分かる。

質疑の肝心の部分を端折つたみえみえの小細工。元最高裁判事殿はこの種の小細工がとてもお好きらしいのである。

■戯言補強の材料はフェミニスト議員のヒステリー発言

ところで、この質問者の受田新吉は、日教組を経て社会党代議士、のち民社党に転じた衆議院議員で、天皇を封建制の遺物とみなし、天皇の地位を平民並みにすることに情熱を注ぎ、女性にも天皇を認めろ、新宿御苑にプールをつくれ、皇室財産を民間に開放しろと、天皇の「特権」剥奪に熱心だつたことで知られる。

憲法第2条に言ふ「世襲」の意味は、《男女両方の血統を含む》と馬鹿のひとつ覚えのやうに繰り返す著者は、自説を補強する材料として、
受田のほかにも国会議員の発言をおびただしく引用してゐるが、そこに登場するのは旧社会党を中心とした左派系議員ばかり。 

○三石久江議員(平成4年、参議院内閣委員会)

《憲法第二条は、皇位継承については「世襲」とだけ規定してあり、男子に限るとは規定しておりませんから、憲法の条文上は女子の継承を妨げておりませんね。》

○久保田真苗議員(昭和60年、参議院予算委員会)

《天皇の地位は国の象徴でありますから、私は女性が排除されるということについては私の国民感情は許したくないのであります。》

三石久江も久保田真苗も社会党。本書がフェミニスト議員のこの程度の低レベル発言を満載してゐるのは、著者の思想レベルを物語つてゐると言ふしかない。

さて、垂れ流しの嘘を散々読まされた読者は、最後の「あとがき」でも、ダメ押しの嘘に付き合はされる。

《本書は、お読みいただいて明らかなように現行法制度じたいについての評価を行うことを意図したものではない(この意味では、本書はむしろ資料集的な側面もあるのではないかと思っている)ことは御理解いただけるであろう。》

拙文を「お読みいただいて明らかなように」、原典の恣意的引用等の小細工に満ちた本書の資料的価値はゼロと言つていい。

赤いお尻が丸見えになってゐるのに、頭だけ隠して正体を隠しおおせてゐるつもりらしいのはご愛嬌といふところか。

■社会党首班時代の皇室会議議員選任

園部逸夫は平成7年から11年にかけて皇室会議議員をつとめてゐる。皇室会議とは説明するまでもなく、皇位継承の順序変更、立后、皇族の婚姻などの議案を審議する皇室の最重要機関で、当時最高裁判事の職にあつた園部は、皇室会議議員の最高裁判事の枠(1名)で選ばれた。

皇族会議の議員は、皇族2名、内閣総理大臣、衆参両議院正副議長、宮内庁長官、最高裁長官、最高裁判事1名の計10名(このほかに予備議員が10名)という構成だから、最高裁の「ヒラ」判事の身分で皇族会議議員に任命されるといふのは名誉なことなのだ。

問題は、なぜ園部が皇室会議議員に選ばれたか、だ。まともな最高裁判事なら皇室会議議員に選ばれても不思議でも何でもないが、園部は、永住外国人への地方参政権付与に関する最高裁判決で、「憲法上禁止されてゐない」といふ「傍論」を書いたりして、裁判官としての左翼偏向ぶりは知れ渡つてゐた。

この人事は当時の政治情勢抜きでは考へられない。

時の総理大臣は村山富一。つまり、自社連立の社会党首班時代だつたわけで、この時の皇族会議には、オールドマルキスト村山富一と法曹左翼園部逸夫が顔を並べてゐたことになる。

女系天皇擁立に向けた政治工作は、自社連立政権時代から始まつたと私はみてゐる。村山、橋本、野中、古川・・・・・・役者は揃つてゐた。園部の皇室会議議員任命はさうした政治工作の一環と思はれる。

園部が最高裁判事を退官し、政府部内の秘密研究会に参加し始めた平成11年は、男女共同参画社会基本法が成立した年でもある。

政府中枢にフェミニズム勢力が浸透し、フェミニズム勢力の対皇室工作が本格化する中で、皇室革命の役割を担つて刊行された書物、それが『皇室法概論』である。

願はくば、皇室の方々が、『皇室法概論』の著者の、元「皇族会議議員」といふ肩書きと、「皇室法専門家」といふ粉黛に欺かれん事を。









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プロフィール

tensei211

Author:tensei211
ちば・てんせい。ジャーナリスト、政治評論家。フェミニズム論、天皇論を中心に執筆活動を展開してゐる。

北海道芦別市生まれ。千葉県在住。

フェミニズム論をまとめた著作として、『男と女の戦争―反フェミニズム入門』(展転社)など。フェミニズム関係の共著に『男女平等バカ』(宝島社)、『夫婦別姓大論破』(羊泉社)などがある。

執筆には、正仮名遣ひ(歴史的仮名遣ひ)を用ゐる。

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